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(゚、゚トソンこの世のすべてであるあなたのようです 前編

原作ジム・トンプスン『深夜のベルボーイ』

 この世のすべて2 この世のすべて


1.
彼の夢を見た。

もう二度と会えない人の夢。


(う、`トソン「ん……」


ベッドから這い出したわたしは手探りで枕もとを探った。

目ざまし時計、睡眠薬、それからやっと煙草とライターを探り当てた。

得体の知れない感情が渦巻いてる。

ある作家は運命の女を「この世のすべての女性を一身に集めた存在」と言った。

それならわたしにとって彼は、この世のすべての男性を一身に集めた存在。




この世のすべてであるあなたのようです 前編


(原作ジム・トンプスン『深夜のベルボーイ』)


2.
(゚、゚トソン(相変わらず少しも眠れない。病院に行かないと……)


枕元から市販の睡眠薬の箱をつまみあげ、ゴミ箱に放り込む。

こんなものまったく効果がない。

何時間も寝返りを打って浅い眠りと覚醒を繰り返すばかりだ。


(゚、゚トソン(今日も暑くなりそう。イヤだな……)


カーテンの隙間から見える夕暮れは重苦しい、鉛色を含んだ紅。

煙草を吸い終えるとわたしは身支度を整えた。

制服を身につけながら、雇われた当時のことを思い出す。


/ ,' 3 「トラブルはなしだぞ、新入り」

(゚、゚トソン「はあ」


事務室で、主任は釘を刺すためかキツく言い渡した。

3.
/ ,' 3「特にウチの生徒さんになるような方、体験入学生には慎重に接するんだぞ。

    人様の大事なお子さんを預かっとるわけだから」

(゚、゚トソン「わかっています」

/ ,' 3「無駄話は極力控えろ。必要のないこと、聞かれていないことは喋るな。

    客と友達になってはいかん。他人のままでいるんだ。それならトラブらない」

(゚、゚トソン(随分念入りね。前に訴えられるとかしたのかな)

/ ,' 3「脅すわけじゃないが、まれに学園側の監査が入る。スポッターと呼んでいるがな」

(゚、゚トソン「監査?」

/ ,' 3「学園に雇われた者が客に化けて泊まりに来るのだよ。

    で、お前さんに誘いをかける。

    例えば目の覚めるような美少年とかが、部屋で一緒に遊ばないかとかな」

(゚、゚トソン(なるほど。それに引っかかったらクビってわけ)

(゚、゚トソン「美少年とか、あんまり趣味じゃないので」

/ ,' 3「そりゃ頼もしい」
4.
ホテルを出ると、わたしは建物をもう一度見上げた。

ホテル『V.I.P.』。

都市部のビジネスホテルのような、無機質な建物。

将来を担う若い才能を育てるべく人工島ごと作られた国立ポッツヴィル学園都市は

途方もなく巨大で、生徒数だけでも1300人近い。

ここは島の入り口、つまり港にあるホテル。

学園の見学に来た生徒や父兄、関係者などを泊める施設で、わたしはここのベルガール。

ベルガールってのはわたしの造語で、ベルボーイのことなんだけどね。

仕事の内容は主に客の相手と雑用。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


仕事に行くと言ってもわたしは住み込みだから、職場はすぐそこ。

ネクタイの位置を直しながら途中厨房に寄り、朝食を取る。

といっても時間帯は夕方だからわたしにとっての朝食なんだけど。
5.
(゚、゚トソン「おはようございます料理長」

( ´∀`)「おはようモナ。まかないならそれモナ」

(゚、゚トソン「ありがとうございます。頂きます」

( ´∀`)「相変わらず礼儀正しい子モナ」


夕食時で死ぬほど忙しい厨房の隅っこで、コックたちの邪魔にならないように縮こまって

ホットサンドイッチを食べる。

彼のことを思い出した。

昨日の夜のこと。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


わたしが仕事に出てしばらく(言ってなかったけど、夜勤なの)経った時だった。

ポッツヴィル島と本土を繋ぐフェリーの最後の便が汽笛で到着を知らせてる。

その日は夏の夜によくある土砂降りの日で、雨音の中に茫然と響いて聞こえた。

6.
(゚、゚トソン「……」

(´・ω・`)「どうした、手が休んでるぞ」

(゚、゚トソン「ああ、いえ」


汽笛の音色はいつもわたしを不思議な気持ちにさせる。

わたしが待ち望んでいる誰かの到着を知らせているみたいに。


(´・ω・`)「103号室のルームサービス代が……んでもって食費が……」


フロント係のショボンさんが読み上げるレシートの数字を、わたしが帳簿に細かく

書きつけて行く。


(゚、゚トソン「ん……」

(´・ω・`)「おい!」


余所見をするとショボンさんがまたかって顔をした。

7.
わたしは首を振って視線をロビーの入り口にやった。


(゚、゚トソン「いえ、来客が」

(´・ω・`)「え? こんな時間にか?」


雨のカーテンから現れたのは、一人の青年。


( ・∀・)

(゚、゚トソン


傘は差していたけどほとんど役に立たなかったらしく、ずぶぬれになっている。

髪から水滴をこぼすその姿にわたしは一瞬にして魂をとらわれた。

猛烈な勢いで頭の中をあらゆる感情が交錯し、足元がぐらついた。

わたしは今、彼に会ったんじゃない。断じて一目惚れじゃない。

わたしは彼を知っていて、今再会したのだと思った。

そう、ずっと前から彼を知っている。ずっとずっと昔から。
8.
( ・∀・)「えと……」

(゚、゚トソン「も、申し訳ありません。お荷物を……」

( ・∀・)「いや、いいよ。泊まれるかな?」


ショボンさんの方を見ると、彼も驚いた顔をしていた。

確かにこんな時間に一人でチェックインするのは珍しい。


(゚、゚トソン「え、ええ……」

(´・ω・`)「トソン、タオルをご用意しろ」

( ・∀・)「いえ、結構。先に部屋を頼みます」

(´・ω・`)「どのようなお部屋がご希望で?」

( ・∀・)「そこそこ安いところで」

(´・ω・`)「承知しました、ちょうどいい部屋が空いてますよ。

     編入生の方で?」

( ・∀・)「いや、まだ決めてないんだ。とりあえず数日見学させてもらおうと思って」
9.
(゚、゚トソン(体験入学か……)


ショボンさんが手続きをすると、わたしは廊下を先に立って彼を部屋に案内した。

全身が心臓になってしまったみたいにドキドキしてる。

部屋につくと灯りを付け、どうぞと合図した。


( ・∀・)「ありがとう」


眼を合わせることが出来ない。

わたしは彼をずっと待ち望んでいたことは間違いないけれど、同時に死ぬほど恐れていたから。

部屋に入って備品が揃っていることを確かめる。


(゚、゚トソン「どうぞごゆっくり。失礼致します」

( ・∀・)「君は僕と同い年くらいじゃないか?」

(゚、゚トソン「え? はい」

( ・∀・)「ポッツヴィルの生徒じゃないんだろ?」
10.
(゚、゚トソン「ええ、昔はそうでした。卒業してすぐにここに雇ってもらって……」

( ・∀・)「そうか」


彼はベッドのそばに立ったままでいる。

今から彼に飛び込んで抱き付いても許されるような気がした。

わたしは自分に言い聞かせる……

というか意識の中で自分の心臓を両手で掴む……


(゚、゚;トソン(ダメ……絶対ダメ……)

( ・∀・)「名前を聞いたっけ?」

(゚、゚トソン「いえ……」

( ・∀・)「まあ、今のところは何にもないよ。おやすみ」

(゚、゚トソン「おやすみなさいませ」


部屋を出た後、しばらくドアに寄り掛かって鼓動が納まるのを待った。

11.
何故か腹が立った。


(゚、゚#トソン(キザ野郎! 思わせぶりな態度して)


顔が良いからって女が誰でも振り返ると思ってるような奴だ。

多分あの年ですでに空き缶を拾うより簡単に彼女を作ることが出来るんだろう。

頭の中で罵りながらフロントに戻る。

ショボンさんが憮然とした顔で待っていた。


(´・ω・`)「遅いな。何してた?」


わたしは嘘をついた。


(゚、゚トソン「バスルームにタオルがなくて。リネン室に取りに……」

(´・ω・`)「本当だろうな?」

(゚、゚トソン「ええ。何を疑ってるんです?」

12.
(´・ω・`)「あの子、美形だったんでな」

(゚、゚#トソン「……」

(´・ω・`)「まあいい。会計を手伝ってくれ」


そう言って彼は会計係の“檻”に入った。

檻と言うのは客から預かった現金や貴重品が入れられた貸金庫がある場所で、防犯上の理由から

鉄格子に覆われている。

わたしも一緒に入り、帳簿をつける仕事を手伝う。


(゚、゚トソン(そう言えばあの部屋、一番いい部屋よね……)


ふと、それに気付いた。

夜中にやってきた客なんて高い部屋に適当に放り込んでも文句は言わないだろうに。

ショボンさんは仕事熱心なのか人間性がねじ曲がっているのか知らないけれど、そういう

客にはいつも一番高い部屋をあてがうようにしていた。

13.
なのに今夜に限ってあの美少年には、何故安くて一番いい部屋を案内したんだろう?


(゚、゚;トソン(……ガチホモって噂、本当かも)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


話を現在に戻そう。

食事を終えてもまだしばらく時間が余っていた。

どこか適当なところで隠れて煙草を吸おうかと考えていると、うんざりする顔が来た。


(^p^)「姉ちゃんwwww姉ちゃんwwwwww」

(゚、゚トソン「カタワー」


弟、カタワーは昔から多少トロい奴ではあったけれど、わたしたちの兄が死んでからは

完全に池沼としか呼べない人間になってしまった。

乞食じみた格好にろくに床屋にも行かない髪。ダンボールのお家がよく似合う格好だ。

14.
何とか顔をしかめないようにして頷く。


(^p^)「弁護士さんが言ってたんだけどwwwなんかwwwなんかwwww」


またその話か。

わたしは彼の言葉を遮った。


(゚、゚トソン「ここには来ちゃダメって言ったじゃない」

(^p^)「あうあうあーwwwwwぱしろへんたすwwww」

(゚、゚トソン「養護学校はどうしたの?」

(^p^)「行ってるよちゃんとwwwwつまんないけどwwww」

(゚、゚#トソン


誰が学費を払ってると思ってるんだろう。

国からの援助があるにしても家計は相当に苦しいのに。


15.
(^p^)「お菓子食いたいよwww姉ちゃんお菓子wwww」

(゚、゚トソン「お菓子? お小遣いあげたじゃない、どうしたのあのお金?」

(^p^)「落としたwww」

(゚、゚#トソン(いっつもそれじゃない)


「どこに?」だとか「何でちゃんと持ってなかったの?」だとか言う質問は不毛。

カタワーは思いつく限りの言い訳を並べ立てるだろうから。


(゚、゚トソン「ほら、お金あげるから。ちゃんと持ってなきゃダメよ」

(^p^)「ありがとねーちゃんwwwwありがとねーちゃんwwww」

(゚、゚トソン「もう来ちゃダメよ」


カタワーを裏口から追い出すと、少し兄のことを思い出した。

同時に弁護士のことも。



16.
カタワーが完全に池沼になってしまった事件ではいまだに控訴が続いてて、弁護士は

彼の頭が弱いのをいいことに裁判を長引かせて金をせびってるみたい。


(゚、゚トソン「……」


従業員用の裏口階段に座って煙草をふかしながら、頭を抱えた。

溜息が出る。

体中のすべてを絞り出すような溜息。

カタワーはいくらでも金を要求してくる。

彼にかかる医者代、弁護士費用、学費。

いくら働いても稼いだ途端に消えてゆくお金。

砂漠にジョウロで水をかけている気分。

せめてカタワーがいなければ……いや、姉としてこんなことは考えちゃいけないんだけど……

でも、そしたらわたしはもう少し自由で……


17.
(゚、゚トソン(兄さんが生きててくれたらな……)


大学生になる計画。

医者になる夢。

このままじゃ全部、みーんな泡になって消える。


「おーい、トソン! まだか?!」


昼勤のチーフが怒鳴ってわたしを探してる。

おっと、もうこんな時間か。

煙草を押し消して吸いガラを携帯灰皿に入れ、わたしは階段を出た。


(゚、゚トソン(とにかく弁護士にガツンと言ってやらないと。

     もうあんな奴らにお金を使ってられないよ)


昼勤の連中と挨拶を交わして代わりに職場に出る。

18.
カウンターで客室サービスの記録簿を覗き見た。


(゚、゚トソン(モララーさん……まだ宿泊してる)

(゚、゚;トソン(……ん!? わたしは何でこんなことをチェックしてるのかな)


ルームサービスを呼んだメモはない。

あの部屋に彼と入った女性は自分ただ一人だけ。

何故かそれが妙に嬉しい。嬉しいんだか苛立たしいんだか……


(゚、゚トソン「こんばんわ」

(´・ω・`)「ん。ああ」


午前零時を過ぎると正社員はショボンさんただ一人だけになる。

この時間ここにいるのは彼と、わたしと、警備員の三人だけってわけ。

もっとも警備員はしょっちゅう夜警とか言ってどっか行っちゃうんだけどね。

どっかでお酒でも飲んでるんだろうな。
19.
从 ゚∀从「よーよーよー! こんばんわーでございますぅ」


宿泊客の一人、ハインリッヒ長岡が子分を二人連れてやってきた。

気取らない性格の美女でここの常連であり、一月の半分くらいはここで過ごす。

生徒には寮があるのに何故ホテルに泊まるかって?

そりゃあここなら門限を始め窮屈な規則に縛られないし、部屋で酒だって煙草だってやれる。

恋人引っ張り込んでお楽しみもね。


从 ゚∀从「強盗だぞ! トソンちゃん、そこの貸金庫の金を全部出せ!」


両手の人差し指を立てて銃に見立て、ショボンさんに向ける。

ショボンさんは不良娘の冗談には付き合おうとせず、肩をすくめただけだった。

本当なら叱るべき立場なんだろうけど、彼はそういうことにはまったく関心を示さない。

「俺は別にこのガキの担任じゃないし、親でもない」とでも言いたげだ。


(゚、゚トソン「ダメなんですよ、長岡様。鍵が二つ揃わないと……」
20.
从 ゚∀从「おっとそうだった。フヒヒ」


ハインは懐から鍵を取り出し、カウンターに置いた。


从 ゚∀从「そいじゃ、ちょっと預かってくんないかな。この封筒ね」

(´・ω・`)「かしこまりました」


ぞんざいに置いた茶封筒はぱんぱんに膨れ上がってた。


(゚、゚;トソン(いつものことだけどすごいなあ。あれの中身、全部お金なのかな……)


ショボンさんは引き出しから鍵束を取り出し、一つずつナンバーを確かめた。

目当ての鍵を見つけてから会計係の机の後ろにある貸金庫に向き直る。


(´・ω・`)「長岡様、長岡様と……これか」


壁一面にずらっと並んだ引出し型の金庫の一つに、両方の鍵を突っ込んで回転させる。

21.
引出しを引っ張って中に封筒を入れ、きっちり施錠してハインに鍵を返した。


从 ゚∀从「良く出来てるね、いつもながら思うけど。鍵が二つなきゃ開かないわけか」

(゚、゚トソン「はい、その通り」

从 ゚∀从「このホテルで強盗は止めとこう。なんつってね。行くよ」

<ヽ`∀´>( `ハ´)「ういーす」


階段に向かい際、ハインはわたしに振り返った。


从 ゚∀从「トソンちゃん、三十分くらいしたら来てくんない?

     洗濯物が溜まってんのよ」

(゚、゚トソン「かしこまりました」


一介の女子高生が何故あんな大金を持ち歩いてるか説明した方がいいかな。

わたしも噂でしか知らないんだけど、薬物の売人なんだって。


22.
どんなルートを持ってるのか知らないけど睡眠薬や抗精神剤みたいな合法なものから

マリファナ、エクスタシー、覚醒剤みたいな非合法なものまで何でも扱ってるとか。

同級生を騙したり脅したりして売春させてるって噂もある。


(゚、゚トソン(ま、わたしにはどうでもいい事なんだけどね)


怒らせると大変なことになる人間であることは確かだけど、ハインもその子分も

このホテルで何か問題を起こした事は一度もないし、支払いを滞らせたこともない。

むしろガンガン金を使うから見て見ぬふりみたい。

人は人、我は我、されど仲良し。

フロントの電話が鳴った。


(´・ω・`)「ん、ハイン。133室のティッシュペーパーが切れたとさ」

(゚、゚トソン「はいはい、ただちに」


備品室から新品を剥いて持っていく。
23.
それを済ませて戻ると、今度はこんな夜中にまたチェックインする客がいた。


ζ(゚ー゚*ζ「いやーん、デレここ来るの体験入学以来~」

('、`*川「ここはねー、いいんだよ。みんな口が硬いしね」

(゚、゚トソン(風紀委員のペニサスさんか。また女連れ込んでる……)

(´・ω・`)「えー、どのようなお部屋がご希望で?」

('、`*川「何せ壁が防音なんだから。つまり……フヒ、フヒヒ!」

ζ(///*ζ「や、やだぁ。そんなこと言われたら……デレ、もう……」

(゚、゚;トソン(早くしろよアホども)


部屋に案内してから時計を見ると、ハインとの約束の時間が迫ってる。

なのに“檻”の中にいたショボンさんに呼び止められた。


(´・ω・`)「あ、いいとこに来た。帳簿の仕事を終わらせたいんだが」

(゚、゚トソン「先に長岡様のところに行かないと……」

24.
(´・ω・`)「すぐ済むって、三分でいいから」


仕事自体は確かに三分で済んだけど、出るときに“檻”の鍵が引っ掛かって

回らなくなってしまった。

これじゃあ外に出られない。


(´・ω・`)「うーん、開かないぞ。これは困った」

(゚、゚トソン(何かヘンだな? わざとらしい……)

(゚、゚トソン「ちょっとわたしにやらせてもらえませんか」

(´・ω・`)「黙って見てろって。この役立たず」

(゚、゚#トソン


しばらくショボンさんはガチャガチャやってたけど、不思議なことにフロントの

電話が鳴ると突然鍵が開いた。


(´・ω・`)「おお、開いた開いた」
25.
(゚、゚#トソン(絶対わざとだ。わたしに嫌がらせすんのがそんなに面白いのかな)


彼の謝罪を無視してわたしはフロントを飛び出した。

ハインはいつもこのホテルで一番いい部屋、通称スイートルームに陣取ってる。

二人の手下と一緒に、どこから持ち込んだのか酒をグビグビやっていた。


从 ゚∀从「ありゃ?! もう三十分も経ったか」


幸い酒が回って上機嫌みたい。

わたしはほっとした。


从 ゚∀从「一杯やんない? どう?」

(゚、゚トソン「ありがとうございます。でもお酒はあんまり……」

从 ゚∀从「こりゃ失礼、そうだったね。じゃあこっちは?」


火の点いた煙草を差し出され、わたしは一口だけ吸い込んだ。

26.
いや、煙草にしては妙に甘ったるい臭いがする。


(゚、゚;トソン(これは……マリファナかな。肺には入れないでおこう)

从 ゚∀从「お前ら紹介してなかったっけ? この子がトソンさ」

<ヽ`∀´>「どーもニダ」

( `ハ´)「ちわっすアル」

从 ゚∀从「ちょうどあんたの話をしてたとこ。いやあ、ひでえ話だよ!

     あんたみたいにホント頭も器量もいい子がさあ、学校辞めて働いてるなんて。

     医者になるべきだった一人の有望な女の子が……」

(゚、゚トソン「いえ、卒業はしました。大学に行けなかっただけで……」

从 ゚∀从「そーかそーか! そうだった!」


わたしは一つ、V.I.P.の決まりを破っていた。

彼女と無駄話をし、友達のような関係になってしまっていたのだ。

ハインは無遠慮であけっぴろげな明るい性格で、二言話しただけでも好きになれるタイプ。
27.
从 ゚∀从「弟さん、ひどい目に遭ったそうじゃない」

(゚、゚トソン「いえ……ええ、はい」

从 ゚∀从「陰険だよやることが。イジメっ子のグループに階段から突き落とされるなんて……

     それで池沼に……」

(゚、゚トソン「池沼と言うほどじゃないんです、ただ少し障害が残ってしまって……」

从 ゚∀从「ああ! わかってるわかってる、気を悪くした?」

(゚、゚トソン「いえ」

从 ゚∀从「ゴタゴタは片付きそうなの?」

(゚、゚トソン「お決まりの論調ですよ。未来ある若者たちに厳罰など論外だとか何とか。

     有罪に出来る見込みはなさそうで」


……正直なところ、弟を池沼にした連中が有罪になったとしても、それが何なんだろう。

弟が元に戻るわけじゃない。


从 ゚∀从「そこだよ! そこが納得行かないんだわたしはいつも」
28.
从 ゚∀从「それじゃあトソンちゃんの弟の未来はどうなるってんだよ、なあ?」

<ヽ`∀´>「まったくニダ」

( `ハ´)「ハインの言う通りアル」


例えハインみたいな不良でも、自分の立場に立ってくれる人がいることは嬉しいこと。

わたしは少しだけ笑って見せた。


从 ゚∀从「おっと、仕事の邪魔をしちまったかな?

     ニダー、あの袋持ってきな」

<ヽ`∀´>「ういっす」


洗濯物を入れた袋を抱えてわたしが部屋を出ようとすると、ハインが追ってきた。


从 ゚∀从「ほら、これでうまいもんでも食え」


ポケットに小額紙幣を押し込まれた。

29.
わたしは断るようなことはしなかった。


(゚、゚トソン「失礼致します、長岡様」


部屋を出て洗濯室に行き、籠の中に放り込む。


(゚、゚トソン(派手な下着だなあ)


カウンターに戻るとショボンさんが傍目に見てもイライラしていた。


(´・ω・`)「洗濯物受け取るだけだろ、どこでサボってた」

(゚、゚トソン「そんなにかかってませんよ」

(´・ω・`)「仕事は山積みなんだぞ、まったく! トロい奴だ」

(゚、゚;トソン(何怒ってんのかな?)


さっきの“檻”の嫌がらせだってそうだ。

一体わたしの何が気に入らないんだろう?
30.
最近妙にイジメられてる気がするんだけど……


(´・ω・`)「ほら、帳簿の続きを済ませるぞ。チャッチャと動け」


それからわたしとショボンさんは夜の仕事をこなして行った。

その日の売上を客への請求書と見比べ、部屋ごとのレシートの内容を帳簿に書き写す。


(゚、゚トソン「123号室、フィレンクト。一名でルームサービスが……部屋代が……」

(´・ω・`)「次」

(゚、゚トソン「えーと144号室、モララー。一名。ルームサービスが……」

(´・ω・`)「モララーか」


彼まで来ると不意にショボンさんはペンを持つ手を休めた。


(´・ω・`)「いい男だと思わないか?」

(゚、゚トソン「え? ええ、確かに」

31.
(´・ω・`)「女性から見てどう思う?」

(゚、゚トソン「どうって……」


わたしは二つの意味で返事に窮した。

一つはモララーのことを突然聞かれて、もう一つはショボンさんが昔のフレンドリーな

態度に戻ったことで。


(゚、゚トソン「えっと……いいと思います。とっても」

(´・ω・`)「思ったより面食いだな。容貌はもちろんだが、あの年であの物腰だよ。

     ありゃあ将来が見込めそうじゃないか?

     きっと色んな女を泣かせるよ、本人の意思とは別に」

(゚、゚トソン「……」

(´・ω・`)「お前、いつまでここで働く気だ?」

(゚、゚トソン「えっ? ええと……弟次第です。彼の学費とか医療費がどうしても」

(´・ω・`)「奨学金だとかあるだろ? 医療費だってそういう事情があれば……」
32.
(゚、゚#トソン「そんなに簡単な問題じゃないんですよ!」

(´・ω・`)「そうかい?」


ショボンさんの目に含まれる蔑視。

こいつらはいつもそうだ。

わたしの苦労なんかどうだっていい、どれだけ人生を削り取られたとしても、

身内に障害者がいるなら世話するのは至極当然って顔。

自分は良識ある、正しい側の人間だからって顔でわたしを非難する。

ふざけんな、畜生。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


仕事を終えてヘトヘトで自分の部屋に引き揚げる。

途中厨房によってまかないを腹に詰め込んだ。


(´、`;トソン(ショボンさんが辛く当たってくるせいで余計疲れる……)
33.
ベッドに倒れると物憂げな気分になった。

ずっとこうしていたいところだけど、もちろんそんなわけにはいかない。

カタワーの薬を取りに行かないと。

もちろんポッツヴィルには大きな病院もあるから、そこまで歩いて行く。


(゚、゚トソン(あいつ一人に任せるとお金を何に使うかわからないから……

    それからダメモトで医療費をもっと減らしてくれないか頼んでみよう)


着替え、ホテルを出て朝方のポッツヴィルを歩く。


( ^ω^)「今日こそ彼女に告白するお!!」

(,,゚Д゚)「出た、死亡フラグwww」

(*^ω^)「そんなことないお! ツ……ツンもきっと僕のことを……」

(*゚ー゚)「あ、いたいた。ギコくぅん、一緒に行こ~」

ξ ゚⊿゚)ξ「ブーン、い、一緒に行ってあげてもいいんだからね!」

34.
(゚、゚トソン(ちょうど登校時間か……)


同年代の子たちの楽しそうな姿を見ることほど辛いことはない。

どんどん卑屈で暗い気分になってくる。

だからわたしは、復讐のつもりでいつもこんなことを考える。


(゚、゚トソン(あなたたちもいつかきっと気付く。

    今は目の前で道が枝分かれして、その先は全部明るくて、そのどれにでも

    行けるような気がしてる。

    でもある日気付くの。その道は実は、九割方が行き止まりだって。

    あなたたちが道を選ぶんじゃない。

    道があなたたちを選ぶの)


みんなわたしみたいになれ。

一見歩きやすそうな、実はその先は行き止まりの道に選ばれろ。

35.
行く先全部が行き止まりの交差点で立ち竦めばいい。わたしのように。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


病院につくと薬を貰って代金を払った。

医者に面会して話を切り出す。


(゚、゚トソン「あの、医療費なんですけど……」

( ´ー`)「何かな?」

(゚、゚トソン「お金がちょっと……もう少し援助が貰えないんですか? 国から」

( ´ー`)「うーん、難しいね。カタワーくんの障害は“軽度”に認定されてるから。

      これ以上補助はないんだよ」

(゚、゚トソン「でもわたしは親戚とかに頼れないんです。何とか……」

( ´ー`)「それより君、カタワーくんの身なりをちゃんとさせたまえ。

     あれじゃ乞食だぞ。今橋の下で起きましたって感じだ」

36.
(゚、゚#トソン「お金ならちゃんと渡して……」

( ´ー`)「来患を待たしてるんでね。はい次の方」

(゚、゚トソン「……」


ますます打ちのめされた気分で家へ戻る途中、登校中のカタワーにばったり会った。


(^p^)「姉ちゃんだwwww姉ちゃんだwwww」

(゚、゚トソン「ちょうど良かった。はい、あんたの薬」

(^p^)「俺が行くっていつも言ってるのにwwww」

(゚、゚トソン「あんたにお金を渡すと……ううん、いいわ。それはもう。そんなことは」


通りすがりの女子生徒がこっちを見てクスクス笑っている。


ζ(゚ー゚*ζ「何あれー。ダサッキモッ」

(*゚∀゚)「ほんとねー」


37.
わたしは溜息をついてカタワーを頭の上から下まで改めて見た。

確かにひどい。


(゚、゚トソン「服を買いなさい。何でそんな格好してるの?」

(^p^)「あうあうあーwww」

(゚、゚トソン「……」


金がない筈はない。

なのにこういう質問をするとすぐカタワーは何もわからないフリをする。

無力な池沼のフリ。


(゚、゚トソン「ほら、これ。無駄遣いしないこと、いい?」

(^p^)「ありがと姉ちゃんwwwwありがと姉ちゃんwwww」


ホテルに戻って従業員用入口から入り、自分の部屋に戻った。

煙草に火をつけてベッドに横になる。
38.
……残されたのが弟でなく借金とかならまだ良かった。

ううん、例え弟がああなったとしても、せめて兄さんが生きててくれさえいたら……


(゚、゚トソン(考えても無駄。考えても無駄だけど……)


カタワーはこの先何年も生き続けるだろう。

そりゃ、姉として生きてて欲しい。それはそうだけど……そうだけど……!!


(゚、゚トソン(わたしは一生カタワーという負債を背負って生きてくってことかな)


自分がした借金じゃない。

ただ彼が生まれ、両親と兄が病死したという時点でわたしは自動的に保証人になった。

返せるアテのない、果てしなく続く返済。

失うものばかりで得るものはない。


(゚、゚トソン「兄さん……」

39.
両親が病死し、カタワーがあんなことになってから、兄さんは弟にだけ心を砕くようになった。

わたしに対してはまるで礼儀正しい他人。

苦しくなった家計を助ける為、わたしが大学を諦めて働きに出ることを当然とみなした。

胸に秘めていたけどわたしは……わたしは間違いなく、弟に猛烈な嫉妬を……


(-、-トソン(兄さんはわたしから離れ、どんどん弟の方に……)



浅い眠りに落ちて行く。

今夜もどうせぐっすりとは眠れない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌朝の出勤前、厨房で食事していると、ホテルのマネージャーが来た。


/ ゚、。 / 「ちょっといいですか、都村くん」

(゚、゚トソン「はい?」
40.
/ ゚、。 / 「内密にして欲しい話がありましてね。あ、食事はどうぞ続けて」

(゚、゚トソン「何の話です?」

/ ゚、。 / 「うーん、何と言ったらいいのか」


マネージャー、ダイオードさんはポケットから便せんを一枚取り出した。

パソコンで印刷された文字が並んでいる。


/ ゚、。 / 「こんな投書がありましてね。イタズラだと思うんですが、ショボン君のことで」

(゚、゚トソン「えーと、なになに」


手紙にはショボンさんが実は銀行強盗だとか極悪人だとか書いてある。

思わず失笑した。


(゚、゚トソン「まさか」

/ ゚、。 / 「僕もまさかって感じですよ。彼はもうここで10年も働いてるわけですし……」


41.
/ ゚、。 / 「ただねえ、彼の過去を知ってる人ってのが誰もいないんですよ。

      彼自身は元自営業とか言ってるけど、裏を取れる人物はいないし」

(゚、゚トソン「クレーマーが腹いせにやったんですよ」

/ ゚、。 / 「でしょうね。でも、もし!

      もし彼に何かおかしな様子があったら、その時は……」

(゚、゚トソン「ええ、必ずお知らせしますよ。あるわけないけど」

/ ゚、。 / 「ありがとう、都村さん。くれぐれもこの話は内密に」


心配性のマネージャーは出て行った。

食事を済ませた後もわたしはしばらく厨房で物思いにふけった。


(゚、゚トソン(あの冴えないおっさんが銀行強盗!? 笑えるな)


前にも言った通り、貸金庫は客の鍵がなきゃ開けられない。

あれの中身をくすねるのなんてほぼ不可能。

42.
カウンターのレジに入ってるお金は釣銭用でごくわずかだし、ショボンさんが例え

犯罪者だったとしても大して盗るものはないじゃない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


その日の仕事はいつも通りに終わった。

相変わらずショボンさんは妙に不機嫌でわたしに文句ばかり言う。

あの手紙を読んで苛立ってるんだろうか?

いや、マネが内密とか言ってたしそれはないかも……


(゚、゚トソン(今日こそ弟に服を買わせないと)


食事をそこそこにし、わたしはカタワーのいる養護寮へ向かった。

今日は祭日で授業はない筈だ。

寮の受付で許可をもらい、彼の部屋に行く。

(゚、゚トソン「カタワー?」
43.
(^p^)「姉ちゃんwwww姉ちゃんwwww」

(゚、゚トソン「服買いに行くわよ、今日こそは。支度して」

(^p^)「ええ……お、俺行きたくないな……」

(゚、゚#トソン「行くの! 笑われるのはあんただけじゃないんだから」


床屋で髪を切ってもらい、服屋で適当な格好を見繕ってもらうと、大分マシになった。

成績優秀だったあの頃の面影が少しは見える。


(^p^)「それより姉ちゃん、弁護士さんのことだけど」

(゚、゚トソン「また今度にしてよ。今は聞きたくない」

(^p^)「いつもそう言うじゃんか。俺が……」

(゚、゚#トソン「今はやめてってば!」


自分の怒鳴り声にわたし自身が一番びっくりした。


(゚p゚)
44.
(゚、゚;トソン「ごめん。疲れてたから……」

呆けた顔の弟にぼそぼそ謝る。

ただでさえ寝不足で頭が割れそうなのに、イライラで吐き気までしてきた。


(゚、゚トソン「ほら、これで本でも買いなさい」

(^p^)「う、うん……」

(゚、゚トソン(うう、何でこの子を見てるとこんなにムカムカすんのかな……)


小遣いを手にとぼとぼと歩み去る彼を見送り、わたしはその場でどうしようか迷った。

帰ってもとても眠れそうにない。


(゚、゚トソン(ちょうどいいや、弁護士のとこに行こう。気が進まないけど……)

(-、-;トソン(うう、でもなあ。イヤだなあ……あの人苦手なんだよね)


しばらくグズグズしてたけど、わたしはとうとう彼の元へ向かった。

生徒が抱える法的な問題解決をサポートするため、ポッツヴィルには弁護士事務所まである。
45.
わたしはそこに勤める一人、ドクオさんを訪ねた。

(゚、゚トソン「こんにちは。ドクオさんはいらっしゃいますか?」


受付が電話でドクオさんに取り次ぎ、わたしは彼のデスクに通された。

何か書類の整理をしているところみたい。


('A`)「お姉さんか、こりゃあどうも」

(゚、゚トソン「どうもこんにちは、御無沙汰してます。

     挨拶が滞りがちで申し訳ありません」

('A`)「いやいや。仕事が忙しいんだろ? こっちから行くべきだったか……

   とにかくかけたまえ」

(゚、゚トソン「いえ、そんな……ありがとうございます」

('A`)「まったく頭が下がるよ君には。苦労を山ほど抱えて……そうそう、弟さんのことだな?

   悪くない風向きになって来たぞ!」

(゚、゚トソン「その話なんですけど」
46.
('A`)「もう二か月か三か月あれば、必ず連中にクソのフルコースを食わせることが出来るだろう」

この人の口の悪さは苦手だ……

いや、本当はドクオさんのすべてが苦手なんだけど。

チビで貧相なのにすさまじい威圧感の持ち主で、反論する気を失せさせる。


(゚、゚トソン「お願いです、聞いて下さいドクオさん。訴訟を中止出来ませんか?」

('A`)「ああ、素人さんは必ずそう言い出すんだ、この手のが長引いてくると。

   不安になってくるんだろうな、しかしわたしとしては……」

(゚、゚トソン「でも、裁判で勝ってイジメっ子グループが例え全員死刑になったとしても、

     もう弟が元に戻るわけじゃないんです。

     それに……その、お金が……」

('A`)「うーん、費用の問題か……それについては何とか出来るかも」

(゚、゚トソン「?」

('A`)「それには弟さんの協力がいるんだがな」

47.
事件のあらましはこう。

まだまともだったカタワーは放課後、隠れて煙草を吸おうと校舎の裏に向かった。

そこから非常階段を上って屋上へ行くことが出来たから。

一服して階段を下りようとした時、誰かに背中を蹴飛ばされ、転がり落ちて脳に障害を負った。

やったのは彼をイジメてた不良グループ違いない。

だけど証拠はカタワーの背中、つまり制服の夏服の背中側に残された上履きの靴跡だけ。

大きさと底の傷の形から不良グループのリーダーの物であることは確かなんだけど、

彼はその靴を最近盗まれていたと苦しい言い訳をした。


(゚、゚トソン「確たる証拠はないわけだし、もしかしたら別の誰かが……」

('A`)「確かにその方法を使えば他人が彼になり済ますことは可能だ。

   だがいったいそれでそいつに何の得があるって言うんだ?」

(゚、゚トソン「……」

('A`)「盗まれたなんて言うのも布石だったんじゃないか。その日の為の」

48.
(゚、゚トソン「そこまでしますかね」

('A`)「で、さっきの話だが、協力と言うのはだ。

   カタワー君が一言『見た』と言ってくれればいいんだよ」

(゚、゚トソン「……?」

('A`)「わからんかね。自分の背中に蹴りを入れた奴の顔をだよ。

   彼は見てないらしいが、実は見てて最近思い出したことにするんだよ」

(゚、゚;トソン「そ、そんな……今更そんな都合のいい話、陪審員が納得するわけが……」

('A`)「俺が納得させるさ。頑固者に納得させるのが俺の仕事だぞ」


こりゃダメだ。

どうやっても諦めそうにない。

わたしは腰を浮かせた。


(゚、゚トソン「わたしの為に時間を割いてくれてありがとうございました」

('A`)「いやいや、いいさ。近いうちにまた」
49.
わたしが部屋を出際に、ドクオさんは同じことをもう一度言った。


('A`)「弟さんによく言い聞かせておいてくれ、誰がやったのか、それをハッキリしろってね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


客に呼びつけられる回数の少ない、静かな夜だった。

外では静かに雨が降り続けており、時々彼方に稲光も見える。

ショボンさんを手伝って書類仕事を早々に済ませてしまうと暇になり、わたしは

カウンターに頬杖をついてぼーっとしていた。


(゚、゚トソン(ドクオさんは何か勘付いてる……いや、だとしてもいいか。

     どうせ彼には何にも出来ないんだから)


(´・ω・`)「大学には行きたくないのかい」


“檻”の中で同じく暇そうにしていたショボンさんが不意に言った。
50.
(゚、゚トソン「え? ええ……行きたいけど、片付けなきゃいけない問題が山積みで」

(´・ω・`)「そうかい。んじゃ、僕はそろそろ飯に行ってくるよ。あとは頼んだ」

(゚、゚トソン「はい」


食堂へ作り置きのまかないを食べにショボンさんは姿を消した。

食後の煙草の時間も入れると2,30分は戻って来ないだろう。

わたしは一人深夜にフロントで立ち尽くしている。

静かだ。この世にわたしただ一人だけのように。


(う、`トソン(眠くなるなあ……)


欠伸をしていると電話が鳴った。

ぎょっとして肩が竦み上がる。

電話機のディスプレイにはモララーさんの部屋番が表示されていた。


(゚、゚トソン「!」
51.
(゚、゚トソン「はい、こちらフロントで御座います」

( ・∀・)「君か。ああ、名前を聞いてなかったかな……」

(゚、゚トソン「都村と言います」

( ・∀・)「都村さん、封筒を持ってきてくれないか。業務用の茶封筒でいい」

(゚、゚トソン「えと……少々お待ち頂けますか? フロント係が今出てまして。

     その間カウンターを見てないと」

( ・∀・)「見てないとどっか行っちゃうのか? そのデスクは」

(゚、゚;トソン「……」


彼は自分のジョークにそっと笑った。

あるいはわたしが返事を窮する様子に。

( ・∀・)「いいんだ。手が空いたら来てくれ」


電話はそこで切れた。

受話器を置いてしばらく呆然とする。
52.
引出しから封筒を一枚取り出す。

その前にポケットからコンパクトを取り出して髪型を整えた。

……何やってるんだろう、わたし?

電話を手に取って厨房に電話をかけようとして、わたしは動きを止めた。

別にショボンさんを大急ぎで呼び戻さなきゃいけないほどの用じゃない。


(゚、゚トソン(夜中の三時に封筒……?)


普通じゃない。

彼がスポッター……というのがありえないってことは、もう確信していた。

チェックインのあのセリフだ。

「安い部屋でいい」

スポッターならホテル側が宿泊費を負担するのが普通じゃない?

ならば値段を気にする筈はないわけだから……

わたしは自分に対して素直になろうとした。今まで生きて来た中で一番素直に。
53.
(゚、゚トソン(わたしたちはお互い、一目見た瞬間から興味を持った。間違いなく)


彼にもう一度会いたい。チェックアウトする前に、二人きりで。

折よく食事を終えたショボンさんが戻ってきた。


(゚、゚トソン「ちょうど良かった。封筒を届けて来ますね」

(´・ω・`)「わかった」


デスクを任せて彼の部屋へ。

途中、ハインと部下二人とすれ違った。


从 ゚∀从「よーよーよー! 今から友達が帰るとこさ」

<ヽ`∀´>( `ハ´)

(゚、゚トソン「あ、はい。お見送りします」

从 ゚∀从「いらないって、子供じゃないんだから。じゃあまた」

(゚、゚トソン「そうですか。ではまたのご利用を」
54.
彼の部屋の前についた。

もう一度せわしなく髪型を整えて、わたしはノックした。

僅かに衣ずれのような音が中でして、「入ってくれ」って声がした。


(゚、゚トソン「失礼します」

( ・∀・)


灯りがついていない。

彼は窓辺のコーヒーテーブルに浅く腰かけている。

換気の為かわずかに開いた窓から吹き込む風が、カーテンをゆるやかにひらめかせて、彼の

体にまとわりつかせていた。


( ・∀・)「……」


唇から漏れたのは何かの質問……或いは、誘いの言葉で……

わたしは無意識に手の中から封筒が滑り落ちるのを感じた。
55.
稲光が一瞬だけ彼の裸体を浮かび上がらせる。

恐ろしく研ぎ澄まされた端正な姿。

わたしは音もなく一歩ずつ彼の方へ……狂おしいほどの要求に従って……

お互いの肌が触れ合い、指が絡み合って、冷たい唇と唇が……


( ・∀・)


突然、あの声が聞こえた。

耐え難い悪夢のフラッシュバック。

彼は無言だったけれどわたしの体にし染み込むようにして。


(俺にまで股を開くのか、このビッチが!!

お前は要求されりゃ誰にだってそうするのか、相手が犬か馬でもか!?

大体お前さえいなければカタワーは……)


(;、;トソン(やめて、やめて、やめて!!!!!!!!)
56.
わたしは彼を突き飛ばすようにして離れると、ほぼ無意識のうちに右手を振るった。

モララーさんの頬か顔面か……とにかくそのあたりを平手がしたたかに叩く音。

自分でも信じられないくらいの力が込められていた。


(;・∀・)「うっ」


モララーさんがよろめくくらいだったから。

わたしは泣きながら部屋を飛び出した。


(;、;トソン









つづく(逃亡しなければ)
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完全犯罪(カンザイ)
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