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('A`)と川 ゚ -゚)の最期の二週間のようです

KOBに出したやつ。
こんな恋愛映画みたいなお話もたまにはいいじゃない?


1.
ドクオは体中の空気を搾り出そうとするみたいな溜め息をつき、目の前の男に告げた。


('A`)「まずは誕生日おめでとう。さて、早速だが本題に入ろうか。

   お前が目指しているのは小説家だったな? もう何年もありとあらゆる賞に送りまくってる。

   結果は……結果は、言わなくてもわかるな。散々だ。

   お前が他のすべてに無能でも生きて来られたのは、ひとえに小説があったからだ。

   しかしその小説がまったく通じないとわかった今、お前の価値ってやつはどこにあるんだ?

   ……とまあ以上のような理由から、」


また溜め息をつく。


('A`)「お前の人生を失敗と認定する。おめでとう」





ド ク オ と ク ー の 最 期 の 二 週 間 の よ う で す

2.
目の前の男はうなだれていた。

今まで何となくではあるが気付いていた事を、こうして真正面からはっきり言われたからだろう。

ドクオとてこのことを告げるのは本当に苦しいことだった。

だがもう誤魔化すことはできない。


('A`)「失敗だよ。何もかも失敗だ」


ドクオの目の前にいる男はドクオ自身だった。

つまりドクオは洗面所にいて、鏡の中のドクオ自身に話しかけているのだった。


('A`)「それじゃ、行こうか」


一次選考落選の通知をゴミ箱に放り込み、部屋を見回す。

こういう時は身の回りを整理するもんだっけ?

色々考えた後、ドクオは一本の万年筆だけ持って行くことにした。

とある賞の一次選考通過者全員にプレゼントされた品だ。
3.
あれが唯一、一次を通過できた賞だった。

安っぽい作りだけど、ドクオにとっては宝物だ。

それをポケットに入れて家を出る。

どっちを見ても灰色しかない、コンクリートの色に沈んだ冬の町。

珍しく晴れた暖かい日だったが、ドクオの胸はまさにコンクリートを詰め込んだみたいに重かった。


('A`)「この風景も見納めか……」


向かった先はショッピングモールにあるスポーツ用品店だ。


(*゚ー゚)「いらっしゃいませ」

('A`)「ロッククライミングをするんだ。命綱になるロープはあるかい?」

(*゚ー゚)「それでしたらこちらに。何メーターほどご入用で?」

('A`)「あー、2mでいい」


店員は変な顔をした。
4.
(*゚ー゚)「2m?」

('A`)「ああ。2mで」


そりゃそうだろう。

2mは命を救うには短過ぎるが、しかし命を放り捨てたいやつにとっては悪くない長さだ。

それに命綱で首を吊るなんてまさにブラックジョーク、気が利いてる。

ロープに加えて折り畳み式の椅子を買い、ドクオは店を出て駅に向かった。

電車に乗ったドクオは他の乗客の顔を見ていた。


('A`)(例えば俺が今ここで「俺は今から死にに行くんだ!」って叫んだらどうなるかな?)


まあ、目を合わせないようにするだけで止めるやつはいないだろう。

別に止めて欲しくもないけど。

ドクオ自身、実に淡々とした気分だ。

まるで工場の中で次から次へと流れてくるパーツを組み立てているように。

5.
('A`)(安いもんだな、自分自身の命なんてのは)


恐らくここにいる誰もが2mのロープを買うだけのカネを持っているだろうし、それを引っかける場所も

いくつか思い付くだろう。

普段の生活では死とは何か遠いところにあるようなものの気がするが、実際は常に手が届く距離にある。

人は買い物に行くように死にに行けるのだ。

電車に揺られる間、座席に腰を下ろしたドクオは眼を閉じていた。

瞼の裏側に浮かぶのは大木の姿だ。

最近、この木の光景がいついかなる時でも思考に割り込んでくる。

大きくてがっしりした木だ。枝も手ごろな高さにあり、太さも申し分ない。


('A`)「あ、そう言えば遺書を用意してなかったな」


作家らしく時世の句でも……と思ったが、すぐに面倒臭くなった。

別にどうでもいい。

6.
恋人も友人もないのに誰に何を言い残す気だ?

だがそれはつまり、自分が今日消えてなくなったとしても、この世に対して何の影響もないって事だ。


('A`)(失敗だな)


失敗だ。何もかも、本当に失敗だ。

電車の窓から人生最後の風景を味わった後、ドクオは郊外で電車を下りた。

人気のない林の中にポツンとある無人駅だ。

しばらく林の中の道なき道を歩くと、大木の前に出た。


('A`)「ここだ」


前に取材に来た時に見つけた場所だ。

人気はまったくないし、恐らく自分が腐って土に返るまで見つかるまい。

誰かに見つかるなんてうんざりだ。

増してや自分の葬式で老いた両親が泣く姿なんて想像するだけでイヤになる。
7.
もう自分のことで誰かが騒ぐのを見たくなかった。

ドクオは自分など最初から生まれて来なかったことにしたかった。


('A`)「このへんでいいか。この枝なら……」


椅子を組み立ててその上に乗り、枝にロープを結び付ける。

解けないようにしっかり枝に結び、次にもう一端に輪を作った。

ここまでの手順を終えると流石に緊張してきた。


('A`)「もう何一つ惜しいものなんかないだろ? 何を躊躇してるんだ、俺は?」


もう生きていたい理由は何一つない。

思い切って輪に頭を突っ込もうとした瞬間、ドクオは初めてその人影に気付いた。


川 ゚ -゚)「……」


大木の反対側の枝で、同じように首を吊ろうとしている女がいた。
8.
頑丈なロープ、それを結び付けた太い枝、折り畳み式の椅子。

こっちを見ているぎょっとしたような顔。

あそこに立っているのが自分じゃないって事以外は、まるで鏡のように同じだ。

二人はしばらくの間、身を乗り出して木の影からお互いの顔を見つめあった。


('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」


ややあってから同じに顔を引っ込める。

見なかったことにしよう、って感じで。

ロープを掴み、自分たちがやろうとしていたことに意識を戻そうとする。


('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」


しかしこの状況でお互い相手が気にならない筈はない。
9.
ドクオはとうとう声を出した。


('A`)「あ、あー、おい。失礼だが、ちょっといいか」

川 ゚ -゚)「何?」

('A`)「いや、何をしているのかな、と」

川 ゚ -゚)「そりゃあ、そっちと同じことだと思うけど」


そりゃそうだ。

あの女がピクニックに来たようには思えない。

ピクニックに来た奴は椅子に乗って木の枝にロープをかけて輪を作ってそこに首を突っ込んだりしない。


('A`)「死のうとしてるのか?」

川 ゚ -゚)「まあね」

('A`)「そ、そうか……」

川 ゚ -゚)「そう」

10.
('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」


こういう状況を想定していなかっただけにどう喋ったものかわからない。

やはり見なかったことにしてとっとと死んでしまうか?

しかし見知らぬ女と一緒に並んでぶらぶらぶら下がっているというのはかなりマヌケな格好だ。

天秤じゃあないんだ。

ドクオは思い切って口を開いた。


('A`)「えと……悪いけど、他所でやってくれないか」

川 ゚ -゚)「あなたが別の場所に行けばいいんじゃないか?」

('A`)「ここは俺の予約席だ」

川 ゚ -゚)「いつから?」

('A`)「一年前に来て見つけた」


11.
女は少し勝ち誇ったような顔をした。


川 ゚ -゚)「ここは私が子供のころの遊び場だ。10年くらい前のな」

('A`)(クソ、手強いな)


とりあえずこんな格好で長話もない。

二人は椅子から下りて顔を見合わせた。


('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」


変な感じだ。ものすごく、変な感じだ。

この空気の微妙さをどう表現すればいいのか。


('A`)「は、はじめまして……」

川 ゚ -゚)「こちらこそ」

12.
('A`)「この場所を譲る気はないんだな?」

川 ゚ -゚)「ない」

('A`)「俺もだ」

川 ゚ -゚)「じゃあどうする? 並んで吊るとか?」

('A`)「それもマヌケだな」

川 ゚ -゚)「こうしよう。より納得できる理由がある方に譲るんだ」

('A`)「話し合いをして『ああ、そりゃあ死ぬしかないな』って方がここで吊ると?」

川 ゚ -゚)「そう」


一瞬名案のような気がしたが、やはり何か間違っている。


('A`)「でも俺にとって深刻な問題とか理由が、お前にとってもそうとは限らないだろ。

   その逆もそうだと思うし」

川 ゚ -゚)「うーん……」


13.
沈黙が落ちる。

折り畳み椅子に座って二人はしばらく考え込んだ。


('A`)「じゃあ、こんなのはどうだ。相手の死ぬ気を挫くんだ」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「励ますんだよ。死ぬ気がなくなればここで吊る必要がなくなるわけだから」

川 ゚ -゚)「が、がんばれー」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「ごめん」

川 ゚ -゚)「あなたは今すぐ死ななきゃならない理由があるのか?」

('A`)「別にそういうわけじゃないけど、なるべくすぐに死にたいな」

川 ゚ -゚)「一週間だ」

('A`)「?」



14.
川 ゚ -゚)「お互いに一週間かけて相手の死ぬ気をなくすんだ。先攻後攻に別れて」

('A`)「その発想はなかったわ」

川 ゚ -゚)「どうする?」

('A`)「うん、まあ、それでもいいけど」

川 ゚ -゚)「順番はコインで決めよう」

('A`)「じゃ、俺は表で」


女はサイフから取り出した硬貨を真上に弾いた。

キャッチして手を開く。


('A`)「表か……じゃあ、俺は後攻にする」

川 ゚ -゚)「最初の一週間は私があなたを助けるわけだ。じゃ、とりあえずここを出よっか」


二人とも自分のロープをほどき、椅子を持って林を出た。

電車に乗り、並んで座席に腰を下ろす。

15.
('A`)「ところで、俺をどう励ましてくれるんだ?」

川 ゚ -゚)「ん? それにはまずあなたが何で死にたいか、それを教えてもらわないと」

('A`)「それもそうか……どう話したもんかな」

川 ゚ -゚)「ゆっくり話して。時間だけはたっぷりある」


まったくもってその通りだが、それにしてもおかしなことになってしまったとドクオは思った。

まさに現実は小説よりも、ってヤツだ。

街に出たところで電車を下り、二人は喫茶店に入った。


('A`)「俺は小説家志望なんだが、全然賞を取れなくて……」


ドクオは自分の事情をすべて吐き出した。

若い女と話すのは久しぶりだったが、内容が内容だけにどんどん気分が落ち込んでくる。

人生で一番楽しくないデートだ。



16.
('A`)「無能な俺の唯一の長所である、頼みの綱の小説ですらまったく通用しないという……

   まあそんなわけだ」

川 ゚ -゚)「なるほど、よくわかった」


溜め息をついてクーと名乗った女は頷いた。


川 ゚ -゚)「それじゃ早速、その小説とやらを読ませてくれないか」

('A`)「え?!」

川 ゚ -゚)「私の指針が決まった。一週間であなたにこれ以上ないくらい面白い小説を書かせてあげる」

('A`)「え、えー……」

川 ゚ -゚)「さあ、あなたの家に行こう」

('A`)(行動的な自殺志願者だな)


ドクオはクーを連れて二度と戻らない筈だった自宅へ行った。

パソコンを起動して自分の作品を印刷し、彼女に読ませる。

17.
テーブルについて一通り目を通した後、クーはきっぱり言い放った。


川 ゚ -゚)「なるほど。これはつまらない」

('A`)「更に死にたくさせてどうするんだよ……」

川 ゚ -゚)「あー、そうだった。えーと、そうだな。ちょっとリアリティに欠けるんじゃない?」

('A`)「どういうことだ?」

川 ゚ -゚)「全体的に見て主人公に都合が良過ぎる。共感できない」

('A`)「小説ってそういうもんじゃないのか?」

川 ゚ -゚)「そりゃまあそうだけど、程度ってもんがあるよ」

('A`)「どうすればいいか具体的に言ってくれよ」

川 ゚ -゚)「そうだな……」


ドクオはクーに言われた通り、内容を少しずつ書き換えていった。

次の日も、その次の日もクーはドクオの家に来て彼の小説を読み、あれこれ文句を付けた。


18.
彼女が物言いにまったく遠慮を持ち込まないタイプの人間であったのは、ドクオにとって

良くも悪くもあった。


川 ゚ -゚)「この展開はクソだな」

('A`)「頼むからもう少し優しく言ってくれ。そんなに俺をあの木に吊るしたいか?」

川 ゚ -゚)「吊りたいのは私だから遠慮なく言ってるんだよ」


変な会話だ。まともな人間同士だったら、ありえない。


川 ゚ -゚)「この娼婦の設定がちょっと変だな」

('A`)「ん? どのへんが?」


夕食に買ってきたハンバーガーを齧りつつ、二人はテーブルを挟んでプロットを再度見直した。


川 ゚ -゚)「ピンでやる娼婦なんかいないよ。大抵はポン引き……ピンプっていうんだけど、

    そういう男が一人頂点に立ってるんだ」

19.
川 ゚ -゚)「一人のピンプが所有する娼婦は一人から10人以上まで様々だけど、常に流動的。

    仕事は娼婦の上がりをハネたり怒鳴ったり殴ったり愛してやったり麻薬漬けにすること。

    マフィアと繋がってることも多い。上納金を払って縄張りを確保してもらうんだ。

    ピンプなんてまともな人間じゃない。

    少なくとも、まともに女性を愛せる男にできる仕事じゃないと思う。

    でもこの業界はまともじゃない奴に限って頭がキレるんだ、だから……」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「女を支配することにのみ天才的な才能を発揮し……ん?」


ドクオがポテトを咥えたまま黙っているのを見て、クーは変な顔をした。


川 ゚ -゚)「どうした?」

('A`)「あ、いや」


ドクオは慌てて首を振った。

20.
……まあ、他人の過去に拘るのはよしとこう。

いいじゃないか、どうでも。

どうせこのゲームに勝った方はこの世からいなくなるんだから。


('A`)「勉強になった」

川 ゚ -゚)「何か聞きたそうな顔してるけど」

('A`)「別に何も」


彼女もまた、それ以上は何も言わなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


残り一日を残したところで小説の手直しはすべて済んだ。

ドクオとクーは郵便局に行って原稿を賞に送った後、喫茶店に寄った。




21.
川 ゚ -゚)「まだ明日いっぱいあるけど」

('A`)「実はもう一作書きたいと思ってる。俺の遺言と遺作を兼ねた私小説だ」


クーは笑った。

ドクオが初めて見る笑顔だったが、暗い笑みだった。


川 ゚ ー゚)「勝つ気満々か」

('A`)「内容はこうだ。俺が死ぬことを決意したとこから始まって、それでお前と出会って……」

川 ゚ -゚)「ってことはオチはまだ決まってない?」

('A`)「まあね」

川 ゚ -゚)「それって、どう転んでもバッドエンドじゃない?」

('A`)「さあな。どうなるかはまだわからないだろ?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


そして翌日。
22.
二人はドクオの家で新作のプロットを検討した。

粗方済んだ後、ふとクーが言った。


川 ゚ -゚)「ドクオ、ちょっと思ったんだけど、賞の発表っていつ?」

('A`)「え? 半年後だけど」

川 ゚ -゚)「じゃああなたはそれを見るまで死ねないじゃないか」

('A`)「ん? あー、……あれ?」

川 ゚ -゚)「私の勝ちってことでいい?」

('A`)「ダメだ。それはフェアじゃない」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「俺の番が済んだら結論を出そう。それでいいだろ」

川 ゚ -゚)「やれやれ」


クーは疲れた顔で自分のうなじを撫でた。


23.
川 ゚ -゚)「メンドくさいねえ、人生は」

('A`)「うんざりするほど同感だ」


クーがそろそろ帰ると言うので、ドクオは駅まで送っていくことにした。

夕暮れに染まった街を二人はトボトボと歩いた。


川 ゚ -゚)「で、明日からはお前の番なわけだけど」

('A`)「あー、そうだな。まずは俺と同じように話を聞くとしよう」

川 ゚ -゚)「そうか……」


クーは少し複雑そうな顔をした。

まあ自殺したい奴なんて、それまでの人生が丸ごと触れて欲しくないカサブタみたいなもんだ。

だが目立つカサブタは、やっぱり自分で引っ剥がして見たくなる。

それが多少の苦痛を伴うとしても。


('A`)「うーむ、人生とはかくもカサブタのようなものか」
24.
川 ゚ -゚)「ん? なんか言った?」

('A`)「いや、何にも」


狭い路地を抜けようとすると、目の前に人影が立ちはだかった。

明らかにドクオとクーを待ち構えていたって感じだ。

∧_∧
<ヽ`∀´>「……」


ドクオは振り向いた。

そこにも二人いた。

∧∧
(,,゚Д゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」


明らかにチンピラだ。マズい。

ドクオは恐怖で心臓が縮み上がるのを感じながら、地面を見回して武器を探した。

25.
∧_∧
<ヽ`∀´>「ウリナラの(性的な意味での)国技を見るがいいニダ!」
  _
( ゚∀゚)「おっぱいおっぱい!」
∧∧
(,,゚Д゚)「男はサイフ置いて消えな。それで見逃してやる」


地面には何もない。

ビール瓶も角材も鉄パイプも、石コロすらない。

現実はやっぱり小説みたいに都合良く行かないもんだ。

三人はナイフを手に、真っ直ぐに間合いを詰めてくる。


('A`)「クー、俺が正面の一人にタックルをかけるから、その間に……」


クーはポケットを手に入れたまま動かない。

彼女は言った。


川 ゚ -゚)「何もするな、ドクオ。何もするなよ」

26.
後ろの二人がクーを羽交い締めにしようとした瞬間、彼女は手をポケットから抜いた。

ピュッ、という空気を短く切る音。

  _
( ゚∀゚)「おっぱいおっぱ……あれ?」
∧∧
(,,゚Д゚)「!?」


何が起きたのか誰も理解できなかった。

ただいきなり二人の手と顔に赤い線が出来て、そこから血が噴き出した。

最後のだけはドクオにも見えた。

クーがごく小さな動作で腕を振り、手にしていたものを投擲した。

∧_∧
<ヽ`∀´>「アイゴー!?」


意外だ。

ドクオは人間の体に刃物が突き刺さる音ってのは『ブスリ』とかそういうのかと思っていたが、

実際は『タンッ』という割りと甲高い音だった。
27.
クーは二本目のナイフをポケットから抜いた。

しかし三人は顔を見合わせると、捨て台詞もなしに逃げ出した。

正面の男は腕にナイフが刺さったままだった。


('A`)「い……今のは?」

川 ゚ -゚)「当たって良かった」


クーは深く安堵の溜め息をついた。


川 ゚ -゚)「実は投擲には自信がなかったんだ」

('A`)「そういうことを聞いてるんじゃないんだが」

川 ゚ -゚)「わかってる」


駅まで来るとクーはドクオの方に向き直った。


川 ゚ -゚)「明日話すよ。みんな話す」

28.
クーを見送り、ドクオは家に帰った。

洗面所に行って鏡を覗き込む。もう一人の自分がこっちを見ていた。


('A`)「変な女だ。娼婦のことに妙に詳しかったり、ナイフを巧みに操ったりな。

   まあそれはいいとして、どうするつもりだ?

   彼女が抱えてる問題は多分、お前の比じゃないだろう。それは何となく予想がつく。

   ……どうするんだ? お前に彼女が救えるのか? 自分の人生すら救済できなかったお前が?」


目の前の男は絶望的な顔をする。


('A`)「お前の考えてることを当ててやろうか?

   今すぐ家を飛び出して電車に乗って、あの木に行く。勝負を放り出して反則勝ちする気だ」


ドクオは彼をたしなめた。あらん限りの同情を込めて。


('A`)「だが、やめとけよ。それはフェアじゃねえ」

29.
そうさ。そんな勝ち方には意味がない。

人生最後のプライドをかけた戦いだ。

このままあそこで死んでもイマイチすっきり死ねそうにない。

死にきれないまま怨霊とかになってあの森を永遠にさまようのはゴメンだ。


('A`)「こんな俺でも出来ることと言えば……小説以外に何か……」


その夜、ドクオは一晩中考え込んでいた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日、ドクオは支度を整えて鏡の前に立った。

クローゼットを引っ掻き回して揃えた、少しだけお洒落な格好だ。


('A`)「よし」


彼女の待つ喫茶店へと急ぐ。
30.
('A`)「よう」

川 ゚ -゚)「ん」


すでに来ていたクーの隣に腰を下ろす。

彼女は口をつけていたコーヒーカップを置くと、一息置いてから言った。


川 ゚ -゚)「私の事情を話す」

('A`)「あーいや、それなんだが、別にいい」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「俺には俺なりの計画があるんだ。だからまあ、いつか聞くかも知れんが、今はいい」

川 ゚ -゚)「そうか。で、あなたのその計画ってのは?」

('A`)「秘密だ」

川 ゚ -゚)「……???」

('A`)「まあ任せとけ。とにかく外に出よう」


31.
向かった先は何故か近所の動物園。


('A`)「見ろよ、ハダカネズミだ。MHに出てくるフルフルのモデルってこれじゃないか?」

川 ゚ -゚)「……」


クーは珍獣を見ることと自分の人生の救済とが結び付かず、少し悩んだ。

この男は何を考えているんだろう? それとも何にも考えていないのか?

途中、ドクオは突然進行方向を変えた。


('A`)「えーっと……じゃあ次は向こうへ」

川 ゚ -゚)「ん? 爬虫類館だって。私はあっちに行きたいな」


クーは真正面にある建物を指差す。


('A`)「あ、いや。楽しくないだろ、蛇とかカエルとかトカゲなんて……」

川 ゚ -゚)「何で? 行こうよ」

32.
建物の一角で「実際にヘビに見て触れるキャンペーン」とかいうのがやっていて、

毒を持たない大人しい種類がケージの中に入っている。


川 ゚ -゚)「カワイイねえ。ほら、ドクオ」

('A`)「遠慮する」


クーが指に絡ませた黄色いヘビを差し出すと、ドクオは青ざめて後退した。


川 ゚ -゚)「あ、もしかしてヘビとか苦手なの?」

('A`)「ににに苦手ちゃうわ!!」

川 ゚ -゚)「噛まないって、ホラ」


逃げ出そうとするドクオのズボンの後ろ部分を掴む。


川 ゚ ー゚)「ズボンの中に入れてやろう。そーれ、マムシパワー直腸注入~」

('A`)「やーめーて――――!!」

33.
係員に怒られて追い出され、その日はお開きとなった。

夕暮れの中、駅に向かいながら、クーはドクオに聞いてみた。


川 ゚ -゚)「そろそろ話してくれてもいいんじゃないか。どういう計画なんだ?」

('A`)「秘密だ。とにかく明日も同じ時間に喫茶店で会おう」

川 ゚ -゚)「別にいいけど。一週間は付き合うよ、約束だし」


次の日も、その次の日もドクオはクーを色んなところに連れて行った。

映画館、博物館、遊園地、何かのお祭り。

ドクオはおどけてみたりもしたが、クーは苦笑のような、困ったような笑いを浮かべるだけだった。

本当の意味で笑った彼女をまだ一度も見ていない。

ある暖かい日の夕方。

二人は河口に面した公園のベンチに座って、海と川の境界を見ていた。


川 ゚ -゚)「あなたの計画がわかった」

34.
('A`)「ん?」

川 ゚ -゚)「つまり、この世にはこんな楽しいことがあるんだとか、そういうことを教えたいんじゃないか」

('A`)「えーっとまあ、そうでもあるけど」

川 ゚ -゚)「違う?」

('A`)「少しな」

川 ゚ -゚)「ふーん」


クーは不意にベンチを立った。


川 ゚ -゚)「ナイフの使い方を教えてあげる」

('A`)「何だ、いきなり」

川 ゚ -゚)「いいからほら、立って。こうして構えてみて」


ドクオは立ち上がり、手にナイフを持っているつもりで、言われた通りの格好をした。

彼女がドクオの腕を持ち上げて修正する。

35.
川 ゚ -゚)「ナイフてのは一撃必殺の武器だ。自分が持っていることは相手に知られてはいけない。

    だから抜いてから攻撃するんじゃなくて、抜くと攻撃とを同時にやるの」


そう言えばチンピラを追っ払った時も、クーはギリギリまで抜かなかった。


川 ゚ -゚)「こうだ、こう」

('A`)「えーと……ああ、こうか」

川 ゚ -゚)「ニヤニヤするな」

('A`)「してない」

川 ゚ -゚)「手首のスナップをきかせて、ヒュッと。……あ」


彼女がつまずき、ドクオの方に倒れてくる。

ドクオは抱き止めた。

抱き合ったまま、しばらく時間が止まる。



36.
('A`)「……今のは、わざとか?」

川 ゚ ー゚)「かもね」


囁きあい、離れる。

ドクオは素早く今の出来事について考えを巡らせた。

ナイフの使い方を教えるとか言い出したのも、自分にくっつきたかったからとか……


('A`)(いや、邪推か……あーいやでも、あー……)

川 ゚ -゚)「どうした?」

('A`)「何でもない」

川 ゚ -゚)「それより、明日でちょうど一週間だけど」

('A`)「そうか……もうあれから二週間か」

川 ゚ -゚)「そうだね」


明日がゲームの最終日だ。長かったような、短かったような。

37.
('A`)「お前は結論は出たのか?」

川 ゚ -゚)「さあね、どうかな。あなたは?」

('A`)「わからない」

川 ゚ -゚)「そうか」


それまでと同じように明日会う約束をし、二人は駅で別れた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


電車を下りたクーは駅前にあるアパートに入った。

自宅のドア前で鍵を取り出そうとポケットに手を入れる。

ぞっとする寒気が背筋を撫でた。

反射的にポケットの中で鍵とナイフを持ち変える。

しかし抜く寸前に背中に押し付けられた金属が電撃を吐き出し、彼女の意識は弾け飛んだ。


川 ゚ -゚)「……!!」
38.
翌日。

ドクオは喫茶店でクーを待っていた。


('A`)「遅いな」


いつもなら彼女の方が先に来てここで待っているのに。

何度かけても電話は繋がらない。

ドクオは少しずつ胸に不安が募るのを感じていた。

昼過ぎまで待ったがやはりクーは来なかった。


('A`)「もしかして、抜け駆けしてあの木へ……?」


電車に乗って森に行き、その場所を確認したが誰もいない。

少し安心した自分がおかしかった。

少なくとも彼女は反則技を使うようなことはしなかったわけだ。


39.
喫茶店に戻ってもクーはいなかった。

電話は相変わらず繋がらない。

ドクオはとうとう彼女の家に行ってみることにした。

一度聞いただけの曖昧な話を頼りに、駅前のアパートを一つずつ確かめる。


('A`)「えーと、VIPアパート……ここか?」


すでに暗くなりかけている中、ようやく目的の建物を見つけた。

6世帯ほどが入っている小さなアパートだ。


('A`)「102号室、と……」


ノックしようとした瞬間、ドクオはかすかに彼女の声を聞いた。

いや、声じゃない。うめき声だ。


('A`)「なんだ……? 何が起きてる?」

40.
裏に回ってベランダによじ登り、カーテンの隙間から中の様子を覗う。

スーツ姿の男が一人だけいて、何かを喋っている。

ここからは見えないがクーもいるようだ。

男は血のついたナイフを下げていた。


('A`)「冗談だろ、おい……」


気分が挫ける。恐怖が胃の底から這い上がってくる。

目の前のガラス窓に、自分の顔が映っている。

ドクオはその男に対し、絞り出すような小声で言った。


('A`)「逃げろよ。逃げてあの木で吊っちまえ! ……って言いたいんだろ?

   それはいい案だ。まったくいい案だ。

   だってあれだろ、俺はチンピラにもビビッちまうような男だし、どうせ死ぬわけだし、何て言うか」


言い訳をするだけして、眼をぎゅっと閉じる。
41.
('A`)「でも今日一日はまだ、彼女を助ける日だ」


一度ベランダから出て地面を探すと、手ごろな石が見つかった。

それを手に戻り、ガラスにぶつける。


( ^ω^)「?!」

川 ゚ -゚)「!!」


下着姿のクーはベッドに縛り付けられ、猿グツワを噛まされていた。

全身を浅く切り刻まれており、白い肌の上を赤い線のような傷口が縦横に走っている。


( ^ω^)「いきなりそんなとこから入ってきて、どこのどちら様だお」

('A`)「こりゃ、テメエがやったのか?」

川 ゚ -゚)「―――!!!」


クーが何かを叫んでいる。「逃げて」か? それとも「私に構うな」か?

42.
( ^ω^)「この女の新しい男ってワケかお。ふふん、趣味が悪いお」

('A`)「お前が言うな、変態野郎が」

( ^ω^)「で、どうするんだお?」


男はナイフを小さく振って血を振り払った。

いかにも使い慣れている感じだ。


('A`)(落ち着け、奴は俺が『武器』を持ってることを知らない……何か一瞬でも、気を反らせば……)

( ^ω^)「フヒヒ、おっかなくて固まっちゃったかお。お前、この女の正体を知ってるのかお」

('A`)「?」

( ^ω^)「こいつは元コールガールで、しかも―――」


クーが全身の力を込めてベッドの上でのた打ち回った。

ベッドサイドテーブルに置かれた目覚まし時計が床に落ち、大きな音を立てる。

男の視線が一瞬だけそっちに向きかけた。

43.
今この瞬間だけ、俺は俺じゃない。俺が書く小説に出てくるようなタフでクールな男だ。

ドクオは自分にそう言い聞かせた。

ポケットから一次選考通過者全員にプレゼントされた万年筆を抜く。

抜くと同時に親指でキャップを弾く。

弾くと同時に踏み込んで男の胸にねじり込む。


( ^ω^)「おっ!?」

('A`)「だああああ!!」


腕の力だけでは人間の体にナイフはそうそう刺さるもんじゃない。

タックルをかける要領で体をぶつけ、自分の体重を使って刺すのだコツだ。

クーに言われた通りのやり方をドクオは寸分の狂いもなく実行した。

男二人はもつれ合って床に倒れた。


('A`)「ぜえ、ぜえ、くそ……!!」

44.
( ;ω;)「ぶひいい!! 痛い、痛いお!」

('A`)「そうか。じゃあ眼を閉じろ、これは多分もっと痛い」


先に立ち上がったドクオは、床でのたうち回る男の顔面を渾身の力を込めて踏み付けた。

男が動かなくなったのを確認してから、囚われのお姫様を自由にする。


川 ; -;)「ドクオ!!」


縛めを解かれたクーはドクオに抱き付いた。


('A`)「警察を呼ぼう」

川 ゚ -゚)「そ、それは……」

('A`)「何か事情があるんだな?」

川 ゚ -゚)「……」


クーに簡単な治療を施した後、二人は気絶した男を裏路地に放り出して救急車を呼んだ。

45.
とりあえずドクオの家に行き、改めてクーの傷口に薬を塗る。

男から引っこ抜いてきた万年筆を濡れたタオルで拭いながら、ドクオは彼女に聞いた。


('A`)「あの野郎はお前のピンプか?」


クーは無言で首を振った。


川 ゚ -゚)「私のピンプは内藤が……あいつが殺した」

('A`)「?」

川 ゚ -゚)「あいつのことは私もよくわからない。警察だか軍隊だかの関係者だと思うけど……。

    最初は客として来て、二度目に来た時に言ったの。

   『仕事をしないか』って。内容は人殺し」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「ハニートラップって聞いたことない?」



46.
川 ゚ -゚)「即席の暗殺者になった私は完全に欲に眼が眩んで、色んな奴を殺した。

    ナイフ、毒、銃の使い方は全部あいつから教わったんだ。男の喜ばせ方も……

    クソ仕事だった。死ぬほど嫌だったけど、断れば何をされるかわからないし、それに……」


('A`)「カネか」

川 ゚ -゚)「しょうがないだろ! 高校も出てない、家族もいない私は他にどうすれば良かったんだ!?」

('A`)「いや、別に咎めてるわけじゃない」

川 ゚ -゚)「うん、そうか。ごめん」

('A`)「それで十分にカネが貯まって内藤とかいう奴から逃げ出した、だがあいつは追ってきた、と」

川 ゚ -゚)「そう」


クーは涙をにじませた顔を手の平で覆った。


川 ゚ -゚)「真っ暗だった。夢のあるあなたが羨ましかった。

    私は生き延びてもやる事が何にもなかった……それで、あの木へ行ったらあなたが……」

47.
しばらくの沈黙の後、クーは言った。


川 ゚ -゚)「私たち、今日限りで他人になろう」

('A`)「何だって?」

川 ゚ -゚)「もしもこの後どっちかがあの木で死んだら、残された方は

    『あいつを救えなかった』って悩むことになる」

('A`)「そうだな」

川 ゚ -゚)「行くよ」


クーは席を立ったが、ドクオは追えなかった。

彼女は一度立ち止まり、振り返って聞いた。


川 ゚ -゚)「あなたの作戦って、結局なんだったんだ?」

('A`)「ん? あー……もう言ってもしょうがないと思うけど」

川 ゚ -゚)「教えて」

48.
('A`)「お前を一週間で俺にホレさせる」

川 ゚ -゚)「……」


クーは出て行った。


川 ゚ ー゚)「それ、失敗じゃなかったと思う」


そう言い残して。

彼女が出て行った後、ドクオはパソコンに向かった。

書きかけの私小説にこれでオチがつく。

だがどうにも筆が先に進まない。

コーヒーを飲んだり部屋の中をうろつき回ったりした挙句、ドクオは洗面所に向かった。

鏡の中にいる男は妙に落胆したような、すっきりしないような顔をしている。


('A`)「彼女はああ言ったが、失敗さ。何故なら……まあ……何て言うか。

   どうやらお前の方が彼女にホレちまったみたいだからな」
49.
('A`)「行けよ。行くんだ」


すでに夜明けが近い。

ドクオは着替えて家を出た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


家に帰る気がせず、クーは深夜営業の喫茶店に一人でいた。

何を考えていいのかわからないくらい頭の中はこんがらがっている。


川 ゚ -゚)「どうしよう……」


どうすればいい? これからどうするんだ?

窓の外にはすでに朝日が差し始めている。

とうとう席を立った彼女は支払いを済ませ、喫茶店を出た。



50.
二人はあの木へ向かっていた。

ただし手の中は空っぽだ。椅子もロープも、何にも持ってない。

ドクオは始発に乗ってハイキングロードから林に入った。

クーはタクシーを呼んで、子供のころに見つけた秘密の抜け道から。





もしもあの人がここへ死ぬつもりで来ているなら、その時は止めないと。

急ごう。

こっちの方が先に着けばいいんだけど。







自分はやっぱり、あの人と一緒にいたい。


おしまい

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非公開コメント

No title

もう10レス使えたらすっきり終わったんだけどな。
最後の最後でちょっと寸詰まりになったのがいまだに心残り

初めて読んだけど好きだな
ラストでゾゾっときた

No title

おまけが乗せられなくてさーせん
AAが崩れるんだアレ

ちょくちょく読み返すけど、やっぱいいなコレ
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