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川 ゚ -゚)が歴史を捏造するようです

バカン国は俺が捏造した国で実在しません。


1.川 ゚ -゚)が歴史を捏造するようです
ここはアジアのどこかにある国、バカン国。

その首都ウソルのやや外れ、郊外間際の町に一軒の古本屋があった。

名は素直堂。店主のス・クリョン、通称クーは今日も暇を持て余していた。


川 ゚ -゚)「…退屈だ」


死んだ父親の代から客足は僅かだったが、自分が継いでからはついにぱったり途絶えてしまった。

どうも最近の若いやつというのは本を読まないらしいと、同じく若いクーは愚痴をこぼす。

それでも何とかこうして店を潰さずにいられるのはある副業のおかげだ。







ク ー が 歴 史 を 捏 造 す る よ う で す




2.
足を投げ出したカウンターの上のテレビでは、釘サッカーの様子が映されている。

この国独自のスポーツでボールはさておき釘で刺し合うという危険なスポーツだ。

ぼんやりそれを見ているとドアベルが鳴った。


川 ゚ -゚)「いらっさーい」
∧_∧
<ヽ`∀´>「ウリナラマンセー! 旗をくれニダ」

川 ゚ -゚)「いつものやつならそこに」


クーは店の一角を顎で差した。

国旗が積んである。大きさは色々だがいずれも同じ国のやつだ。

バカン国のお隣にあるバカン国人が世界一大好きで大嫌いな国、チョパーリ国の旭日旗である。


川 ゚ -゚)「そのでかいのはどう? 派手に燃えるよ」
∧_∧
<ヽ`∀´>「むっ、それじゃあこれにするニダ。いくらニダ?」

川 ゚ -゚)「毎度。5000ヨンサマだ」

3.
川 ゚ -゚)(またどっかで集会があるな…)


ウェーハッハッハと嬉しげに旗を振って店を出てゆく客を見送りながら、クーは席を立った。

店の奥から同じ旭日旗を持ち出して積んでおく。今日はよく売れそうだ。


バカン国人は時として物理的に身を焦がすほどチョパーリ人が憎い。

毎週のようにどこかで反チョ集会を開いては旭日旗を食ったり、旭日旗を焼いたり、

旗だけでは物足りないのかガソリン被って自分に火を付けたりしている。

つくづく理解不能な連中だとクーは思う。


川 ゚ -゚)(なんだってそんなに積極的に物事を嫌いになって行動できるんだろ)


連中が激怒する原因というのがまた意味不明だ。

ネットのおかげで最近は海外の情報もいち早く入手できるわけだが、反チョの連中は血眼で

チョパーリ国の情報を集めては激怒する燃料にしている。


4.
チョパーリ国がどこぞに自衛隊を派遣したと言っては怒り、政治家が失言したと言っては怒り、

風習に怒り、アニメの内容に怒り、漫画の内容に怒る。

こいつら怒るのをやめたら死ぬ生き物なのか?


ダンボールから取り出した旭日旗を並べていると、またドアベルが鳴った。


ξ ゚⊿゚)ξ「クー」

川 ゚ -゚)「いらっさーい…なんだ、ツンか」

ξ ゚⊿゚)ξ「なんか殺気立ってるおっさんがいっぱいいたわ。はいこれ、おみやげ」

川 ゚ -゚)「ん。悪いな」


ツンのくれたみかんをカウンターに並べつつ、クーは友人に忠告した。


川 ゚ -゚)「今日はあんま出歩くな。何をされるかわからん。お前、チョパーリ人の血が入ってるんだろ?」

ξ ゚⊿゚)ξ「平気よ。四分の一だけだもん」


5.
案の定今日は客が多い。

旭日旗を売り尽くして一息ついたところで、ツンが聞いてきた。


ξ ゚⊿゚)ξ「クーは興味ないの?」

川 ゚ -゚)「結婚か? 男は嫌いだ。別にレズってわけじゃないけど」

ξ ゚⊿゚)ξ「そうじゃないわよ、反チョ集会のことよ」

川 ゚ -゚)「ハナクソほども興味ないね」

ξ ゚⊿゚)ξ「ま、あんたは昔っからそうだけど」


クーは自分の損得に関係しないことには仰る通りハナクソほどの興味もない。

学校の歴史の授業で習ったし抗チョパーリ記念館とかいうのも見学させられたが、

かわいくないガキだったクーは幼心に「こいつらバカじゃねえの」と思っていた。

それは今も変わらない。

旭日旗を焼いて大騒ぎすれば地殻変動が起きてチョパーリ国が沈んでなくなるとでもいうのか?


6.
ツンが暇だし集会を見に行こうと言い出した。

まあ動物園に行くつもりになれば楽しいだろうと思い、クーは重い腰を上げた。

∧_∧
<ヽ`∀´>「独島(ドイツじま)はウリナラの領土ニダー」
∧_∧
<ヽ`3´>「チョパーリ国は慰安婦狩りの事実を認めろニダー」
∧_∧
<ヽ`o´ >「うちの自転車盗まれた! チョパーリのせいニダ!」


確かに野性の王国だ。野生じゃなくて、『野性』の。


川 ゚ -゚)「みなさんこんにちは。今日は反チョ集会動物園に来ています。こちらは飼育員のツンさんです」

ξ ゚⊿゚)ξ「よろしくお願いします」

川 ゚ -゚)「あの生き物はなんて言うんでしょう?」

ξ ゚⊿゚)ξ「反チョ類のファビョリと言います。主食は旭日旗や謝罪と賠償です」


楽しくレポーターごっこをしていると、どこからか生きた子豚が連れて来られた。


7.
川 ゚ -゚)「何か運ばれてきました。あれは子豚でしょうか? とってもかわいいですね」

ξ ゚⊿゚)ξ「レポーターごっこはもういいわよ、あれどうする気かしら?」


何をするのかと思いきやおっさんたちは突然豚を八方から掴み、力ずくで引き裂き始めた。


川 ゚ -゚)「うわー、サイレントヒル(映画版)のクライマックスみたい」

ξ;゚⊿゚)ξ「おえーっ! 勘弁してよ、もう」


強く引っ張り過ぎたぬいぐるみみたいに豚の体は千切れて弾けた。

ツンは青白い顔で口を押さえているが、おっさんたちは大喜びだ。

 ∧_∧
<ヽ`∀´>「ホルホルホル! チョパーリめ、思い知ったかニダ!」

川 ゚ -゚)(何を?)


豚の死骸はこんがり串焼きにされて出席者に振舞われた。

豚の虐殺と反チョがどう関係あるかは全然わからなかったが、肉は柔らかくてうまかった。

8.
クーはおいしい肉がタダで食えて満足したがツンは気分が悪くなり、帰ると言い出した。

彼女にタクシーを呼んでやってからクーは店に戻った。

鍵を開こうとして手を止める。もう今日は客なんか来ないだろう。

裏に回って階段を上がり、二階の自宅へと引っ込んだ。

風呂に入り、早めの夕食を食べ、パソコンに向かい合う。

帳簿ソフトを起動して今日の売上を書き込んだ。


川 ゚ -゚)(今日は大儲けだな。だけど…)


集会はしょっちゅうあるが、やはり旗売りの副業だけでは少々辛い。

貯金も作っておかないと将来が心配だ。


川 ゚ -゚)(北と戦争が始まったら真っ先に逃げ出す費用もいるしなー。何かもっといい商売は…)


グズグズ考えているうちにクーはインターネットをさまよい始めた。


9.
相変わらずどこもかしも反チョ系のサイトばっかりだ。

しかしその割りにはチョパーリ国のアニメだの漫画だのを違法配信するサイトがやたら多いのは何故だ?


川 ゚ -゚)(イヤよイヤよも何とやら、とは言うけれど…ん、そうだ、待てよ)


「反チョ」「歴史」の二つで検索する。

いかにチョパーリ国が過去にバカン国にひどいことをしてきたかを

嬉々として書き連ねているサイトがぞろぞろ出てきた。

また更に「反チョ映画」「反チョ小説」でも検索する。

バカン国では反チョ文学というものが存在するくらいなので、やはり多数のサイトがヒットした。


川 ゚ー゚)「これだ!」


その晩、クーの部屋からは明け方までキーを叩く音が響いていた。

翌日もその翌日も、クーは店のことなど忘れてパソコンに向かい続けた。


10.
それから数日後、素直堂は久しぶりに店を開いた。

∧_∧
<ヽ`∀´>「お、今日は開いてるニダ。マンセー! 旗をくれニダ」

川 ゚ -゚)「いらっさーい」
∧_∧
<ヽ`∀´>「ん? 店主さん、何か顔色悪いニダ」

川 ゚ -゚)「あんまり寝てないんだ。旭日旗ならそこだ」
∧_∧
<ヽ`∀´>「そ、そうかニダ。まあ、とにかく今日も一番でかいのをもらうニダ」


支払いを済ませて店を出ようとした常連客に、クーは薄い冊子を渡した。

∧_∧
<ヽ`∀´>「これ何ニカ?」

川 ゚ -゚)「私の書いた小説だ。最初の章だけサービスするから、面白かったら本編を買いに来てくれ」
∧_∧
<ヽ`∀´>「…まあ、タダならもらっとくニダ」

川 ゚ -゚)「毎度」



11.
それからクーは旗を買いに来る客全員に冊子を渡した。

客ではないが冷やかしに来た友人にも。


ξ ゚⊿゚)ξ「ふーん。あんた小説なんて書けたんだ」

川 ゚ -゚)「中学生の頃に一度、小説家を目指したことがあるんだ」

ξ ゚⊿゚)ξ「初耳ね。…ねえ、当時書いたやつって残ってる?」

川 ゚ -゚)「先週見付けたよ。物置の奥から出てきた」

ξ ゚⊿゚)ξ「見せて」

川 ゚ -゚)「ガソリンかけて燃やしてしまった」

ξ;゚⊿゚)ξ「そ、そう…」


黒歴史だけに黒煙をあげてよく燃えたもんだ。


ξ ゚⊿゚)ξ「でも、本編買いに来る人がいるのかしら? ペラペラのコピー誌だし…」

川 ゚ -゚)「そう言われるとちょっと不安だな」

12.
クーは自分の書いた反チョ小説『あの豚足どもを殺せ』を改めて読んでみた。

酒とカフェインと狂気的なテンションに任せて三日で書き殴った小説は

どこをどう切って読んでみてももれなく設定と物語と人物が破綻している。

歴史的解釈もムチャクチャで、宇宙で原初に起きたビッグバンは

バカン国人がこぼしたキムチの漬け汁から起こったとかいう有り様だ。

今更ながら頭痛がしてきた。なんだこりゃ?


川 ゚ -゚)「一応ダヴィンチコードを目指したんだけどなー…」

ξ ゚⊿゚)ξ「この小説だとイエスキリストもバカン国人だもんね。クリスチャンに火あぶりにされるわよ」

川 ゚ -゚)「まあ、悪趣味なジョークとして受けとってもらえれば」


一応、本の後ろに小さく「実在のどうたらとは関係ありません」の一文を入れておいた。

誤認や捏造について何か指摘されたらこれが盾になるだろう。

まあ、それ以前に売れたらの話だけど。


13.
自作の小説のことなどすっかり諦めた翌日、常連が来た。

∧_∧
<ヽ`∀´>「ウリナラマンセー、ウェーハッハッハ」

川 ゚ -゚)「いらっさい。松脂コーティングの旗を入荷したぞ、こいつはよく燃える」
∧_∧
<ヽ`∀´>「そうじゃないニダ、今日はあんたの小説を買いに来たニダ」

川 ゚ -゚)「私の!?」


思わず飲んでいたお茶を噴き出しそうになる。

∧_∧
<ヽ`∀´>「そうニダ、昨日寝る前に読んだニダ。そしたらちょっと面白そうだったニダ」

川;゚ -゚)「だ、だ、だってあれは…」


ここで売ったら自分の新たな黒歴史が始まってしまうのではないか?


川;゚ -゚)「え、えーと…あれ、売り切れ!」



14.
∧_∧
<ヽ`∀´>「ニダッ?」

川 ゚ -゚)「そのえーと、すっごく人気でみんななくなっちゃった。すまん」
∧_∧
<ヽ`∀´>「そうニダ…また入荷したころに来るニダ」

川 ゚ -゚)「それはないと思うな、恐らく永遠に」


とっさについたこの嘘をクーは後から心底後悔することになる。

常連はあちこちで『あの豚足どもを殺せ』が絶賛品切れ続出などと言って回ったものだから、

大人気作品と勘違いした客たちが素直堂に押し寄せた。

∧_∧
<ヽ`∀´>「『あの豚足どもを殺せ』をくれニダー」
∧_∧
<ヽ`3´>「大人気でどこにも売ってないニダー」
∧_∧
<ヽ`o´ >「うちの子供がイジメにあった! チョパーリのせいニダ!」


どこにも売ってないのは別の理由だけど。


15.
泡を食ったクーはカウンターの前に置いたダンボールにつまずいた。

『あの豚足どもを殺せ』の本編を入れておいた箱だ。

箱が倒れて中から本がこぼれ落ちる。


川;゚ -゚)(うっ、マズイ)
∧_∧
<ヽ`∀´>「あ、入荷したニカ? もらうニダ」
∧_∧
<ヽ`3´>「ウリも」
∧_∧
<ヽ`o´ >「ウリも」


勝手に手に取ってカウンターに置く客たち。

もう逃げられない。


川 ゚ -゚)「一冊500…いや、1000ヨンサマです!」


それでも需要と見るや値段を跳ね上げることは忘れない。


16.
クーの書いた本は悪い夢のように売れまくった。

帳簿ソフトに記入する収入金額のゼロが一つ多くなったが、クーは頭が痛かった。


川 ゚ -゚)「ささやかながら貯金はできたけど…」


何かとんでもない間違いを犯しているような気がする。

麻薬の売人も帳簿をつける時はこんな気分になるのか?

この時のクーの予感は後に最悪の形で的中することになる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


マズイような気はするが欲に負けて本を売り続けていたある日のこと。

久々に客の少ない日で、クーは店のカウンターでインターネットをしていた。

何気なく歴史系のサイトを眺めていると、あるおかしなことに気付いた。

どこかで見たことがあるような文章が並んでいる。


17.
川 ゚ -゚)「ブ―――――!!!」


思わず飲んでいたお茶を噴き出す。

気だるげな雰囲気が吹き飛び、彼女は前のめりになって画面に齧り付いた。


川;゚ -゚)「こっ…これは『あの豚足どもを殺せ』の設定じゃないか!」


間違いない。

宇宙はキムチ汁から生まれているし最初に火を使ったのはバカン国人でナチスはチョパーリ人が作り

イエスキリストは五つの犬肉と二つのエイの人糞漬けを五千人に分けたことになっている。

自分の書いたフィクションが何時の間にか歴史的事実になってしまっていた。

リンクをたどって他のサイトも回ると似たような供述がちらほらと見える。飛び火ってヤツだ。


川;゚ -゚)(私の本を買ったやつがあの内容を事実だと勘違いしたのか…なんてこった)


頭を抱えてキーボードの上に突っ伏す。

18.
川 ゚ -゚)(だが待てよ…これは私には捏造の才能があるってことなのかも知れない。

     こいつをうまく利用すれば…)

川 ゚ -゚)「これだ!」


その日はそれで店じまいし、クーはパソコンに向かった。

店に山積みになっている歴史書やネットから情報を掻き集め、すべてがバカン国人に都合のいいように

再構築して物語を書き起こす。


川 ゚ -゚)(起源だ…コツは起源をすりかえること…)


すでにこの世に築き上げられたものであっても、起源がバカン国にあったことにすればいい。

これならどこの国のどんな偉業でも何の問題もなし(?)に我が国の功績にできる。


川 ゚ -゚)(更にこの調子ですでに克チョは達成していると締めくくるんだ…)




19.
克チョとはチョパーリを克服、つまり超えることであり、バカン国人長年の悲願(妄想)である。

これを以下のような三段論法でもってして済ませる。


チョパーリ国はバカン国よりもはるかに経済的技術的その他諸々の面で優れている
         ↓
しかしチョパーリ人は低劣かつ醜悪な人種である
         ↓
礼儀正しく善良なバカン国人の方がえらい。だから克チョはとっくに完了してる


まさに戦わずして勝つ。

実際は負けを屁理屈で勝ちにしているわけだが、そんなことはどうでもいい。


川 ゚ー゚)「これだ、これだ、これだ!」


クーはそれから取り憑かれたようにキーを叩き続けた。

そして一週間後、ほぼ不眠不休の末にその小説は完成した。

タイトルは『ラストメモリーズ』。


20.
物語はあるバカン国人の青年が手に入れた文書を中心に展開する。

この文書には国家はおろか人類文明の成り立ちすら揺るがしかねないある重要な情報が隠されていた。

そんな具合で青年はバカン国・チョパーリ諜報員・CIAの三つ巴の戦いに巻き込まれてゆく。

物語が進むに連れて次々明らかになるバカン国とあらゆる文明との関わりとは?


ξ ゚⊿゚)ξ「クー? ちょっと、クー!」


ドアをどんどん叩く音がする。

クーはふらふらと玄関へ歩いて行き、鍵を開けた。


ξ ゚⊿゚)ξ「もー全然電話出ないし店は閉まってるし、心配してたんだから…うわっ、ちょっと?!」

川 ゚ -゚)「う、売れる…こいつは売れるぞ…」


目の下に歌舞伎役者みたいなでっかいクマを作ったクーは不気味に笑って呟き、ツンへ倒れ込んだ。

南国に豪華の極みのような別荘を建てて、ビーチに寝そべる自分の姿を夢見ながら。


21.
丸一日眠って元気を取り戻したクーは介抱してくれたツンに礼を言い、出版社に向かった。

向こうも『あの豚足どもを殺せ』の噂を多少は知っていたようなので邪険にはされなかった。

数日後、電話が来た。


( ゚∀゚)「あ、もしもし。ス・クリョンさんですか?」

川 ゚ -゚)「そうだけど、あなたは?」

( ゚∀゚)「バカン出版のジョム・ジジュルと言います」

川 ゚ -゚)(来た!)

( ゚∀゚)「えー先日持ち込んで頂いた作品ですが、是非こちらで出版させて頂きたいと。

      つきましては色々お話があるのでこちらまでご足労願えますか?」

川 ゚ -゚)「わかりました、すぐ行きます」


クーは電話を持ったままカウンターに飛び乗り、笑い声を上げながらひとしきり踊った。

前にアメリカの映画で見たケツを小刻みに振るダンスだ。


22.
『ラストメモリーズ』は発売と同時に売れた。売れまくった。


川 ゚ー゚)「天国の父さん、見てるか? あんたの娘は一発当てたぞ! アハハハ…」


自宅を改築して作った書斎のテーブルの上に乗り、クーは踊った。

テレビ、インターネット、ラジオで続々取り上げられた『ラストメモリーズ』はその年の各賞を

総ナメにし、バカン出版にとってもはやこの本を刷る事はカネを刷るのも同然となった。

もちろんそれはクーにとっても同じ。


川 ゚ー゚)「『世界を君にあげる』なんつって、アハハハ…」


古書店時代の収入が鼻息で飛びそうな高級ホテルのベッドの上でクーは踊った。

右手の中にはこれまた人の命よりも高そうなワイン。

喉に流し込むと成功の味がした。人生に勝利した味だ。




23.
だんだんテレビに出る機会が増えてきた。

最初のうちは本の宣伝がてらだったのが、今や知識人の一人としてコメントを出す立場だ。

周りの態度が豹変した。

売上で社員全員に臨時ボーナスをくれてやったバカン出版からはVIP待遇を受け、

社交界では時の人として週刊誌に乗りまくった。

彼女は誰もが軽視できない存在になりつつあった。

映画でしか見た事がないようなドハデなドレスを着たまま、クーはクローゼットで踊った。


川 ゚ー゚)「『儲かるは正義』! アハハハハ…」


クーは真実を掴んだ。

『ラストメモリーズ』を批判できるやつは誰もいない。

国益のためについた嘘を暴くなどという反逆行為が許されるわけがない。


川 ゚ー゚)「反チョならばすべてが追い風になる。それがこの国の真実(はぁと」

24.
踊り付かれてホテルのベッドに寝転がっていると、誰かがドアをノックした。

ドアを開けると慣れない場所に呼び出されて少し緊張しているツンがいた。

久しぶりにバカ話がしたくなって誘ったのだ。


ξ ゚⊿゚)ξ「久しぶり。出世したわねー」

川 ゚ -゚)「ゴミを埋める穴を掘っていたら金鉱にぶつかった気分だな」


床に酒やらつまみやらを並べ、直に座って雑談をした。

しばらくしてからツンはずっと付き合っていた男性と結婚すると切り出した。


川 ゚ -゚)「そうか…」

ξ ゚⊿゚)ξ「嬉しくない?」

川 ゚ -゚)「嬉しいよ。とっても」


内心は複雑だ。とてもとても複雑だ。


25.
自分はこんな仕事だし、彼女は主婦になるんだろう。

もう会えなくなるな。

クーはふとそう思った。

結婚するとやはり交友関係は変化してしまう。

クーとツンも他に数人の親友と呼べる女がいたが、皆結婚すると共に疎遠になってしまった。

悪く言えば売れ残った二人だけがずっと付き合っていたわけだ。


ξ ゚⊿゚)ξ「それで結婚式は…ねえ、聞いてる?」

川 ゚ -゚)「ん? うん」


ツンは溜め息をつき、思い切った様子で言った。


ξ ゚⊿゚)ξ「ねえ、クー。そろそろ引き際じゃない?」

川 ゚ -゚)「どういう意味だ?」



26.
ξ ゚⊿゚)ξ「もう一生分の貯金はできたわけじゃない。映画化も成功だったし」

川 ゚ -゚)「興行収入記録を塗り変えたってマネージャーが言ってたな」

ξ ゚⊿゚)ξ「南国のビーチで寝そべって暮らすんでしょ?」

川 ゚ -゚)「うん…」

ξ ゚⊿゚)ξ「ハワイにでも土地を買って古本屋を開きなさいよ。あとは趣味に生きるとか…」

川 ゚ -゚)「ちょっと待て。引き際って、仕事を辞めろってことか?」

ξ ゚⊿゚)ξ「そういうこと」

川 ゚ -゚)「金鉱にはまだ山ほど金が眠ってるんだぞ。全部見捨てろってのか!?」


ツンは難しい顔をした。


ξ ゚⊿゚)ξ「嘘は必ず破綻するわよ。あんたの小説にどれだけ事実があるの?」

川 ゚ -゚)「カネになるのが事実だ」




27.
ξ ゚⊿゚)ξ「きっととんでもない報復が待ってるわよ」

川 ゚ -゚)「誰にされるんだ?」

ξ ゚⊿゚)ξ「あなた自身が築いたトランプの塔によ。いつか誰かがそこから一枚ジョーカーを引っこ抜く。

      それだけですべてが瓦解するわ」

川 ゚ -゚)「うまい言い回しだな。作家になれる」

ξ ゚⊿゚)ξ「ねえ、クー…」

川 ゚ -゚)「お前が私の仕事に文句をつけるな! これから一生働かずに食わせてもらうんだろ!」


自分でも信じられないくらい大きな声が出た。

ツンがびくっと体を震わせる。


川 ゚ -゚)「ご、ごめん…」

ξ ゚⊿゚)ξ「帰るわ」


ツンは立ち上がり、姿を消した。

28.
その日からクーは酒の量が増えた。

ツンと喧嘩したあの日から、頭の中で何かが変わってしまった。

いつもなら残高を見るだけ月までだって歩いて行けそうな気分になる預金通帳も、

このごろ手に取ってすらいない。


川 ゚ -゚)(私の父さんは人は良かったけど無一文で死んだ。残ったのはあの店だけ…

     私は父さんが好きなつもりでいたけど、頭のどっかで憎んでたんだろうな)


カネに執着するのは父親に対する憎悪が歪んだ形で現れているのか?

『ラストメモリーズ2』の発売記念パーティで、クーは一人会場の隅にいた。

女王の玉座を得ながら彼女は果てしない孤独に苛まれていた。

アドルフ・ヒトラーが最期まで一人の女に入れ込んでいた理由が少しだけわかった気がする。

そんな彼女に誰かが声をかけた。


('A`)「失礼。サインもらってもいいかな」

29.
川 ゚ -゚)「いいよ。あなたは?」

('A`)「ド・クンヒ。ドクオと呼んでくれ」


差し出された自著にサインを入れる。

その名前には記憶があった。確か右翼で知られるキョハル党の党首だ。


('A`)「嬉しいね。『あの豚足どもを殺せ』からずっとあんたのファンだ」

川 ゚ -゚)「え? あれを知ってるのか?」

('A`)「もちろん。友人から譲ってもらって読んだ」


クーは久しぶりに笑った気がした。

でも苦い笑いだ。


川 ゚ー゚)「恥ずかしいな」

('A`)「そんなことはない。あんたの才能は大変なもんだよ」


30.
それからその男はクルミを殻ごと齧って食うという芸を披露してくれた。

クーは笑い転げたがそれは芸ではなく、本人からすれば普通に食っているだけだと気付くのは後のこと。

ともかくクーはツンや自分の現状などの色々なことが嫌になっていたこともあり、

やがて何度か会ううちにドクオと付き合うようになった。


('A`)「君は家族は?」

川 ゚ -゚)「父親は死んだ。母親はチョパーリにいる」

('A`)「チョパーリに?」


ベッドから抜け出してシャワールームに向かいながら、クーは淡々と続けた。

まるで母親を他人のことのように語る。


川 ゚ -゚)「在チョだ。貧しい生活が嫌で私と父親を置いて出ていった」





31.
クーはバルブを捻った。熱いシャワーが体に降り注ぐ。


('A`)「君たちは何故行かなかったんだ?」

川 ゚ -゚)「父さんが店を手放さなかったんだ。自分で建てたのだからどうしてもって」


不倶戴天の敵である筈のチョパーリ国に行く同胞は多い。

向こうは景気がいい上に免税されるし、多少犯罪を犯しても通名でしか報道されない。

通名を変えるのは簡単だ。犯人がバカン国人だと報道すらされない事も多い。

いつでも他人になれる、報道されないなら警戒もされない。

これじゃどいつもこいつも犯罪に走るに決まってる。

バカンの謎だ。これだけしてもらっても連中はチョパーリが大嫌い。


('A`)「で、君は父親についたと」

川 ゚ -゚)「まあね。父さんとあの店が好きだったから」



32.
ドクオとの仲が深くなるにつれ、クーも政党の建物に出入りするようになった。

ドクオはクーを連れて歩きたがった。

多分ベストセラー作家を腕にぶら下げているのが自慢なのだろう。

マスコミにも秘密にしたりせず、嬉しそうに彼女のことを話していた。

そんなある日、二人が夕食をとりにレストランへ向かったときのこと。


('A`)「停めてくれ」

川 ゚ -゚)「?」


ドクオが会員制の地下駐車場の前でリムジンの運転手に声をかけた。


('A`)「言い忘れてたが人と会う約束があるんだ。30分で戻る」

川 ゚ -゚)「わかった」


彼はボディガードを二人連れて駐車場へ入っていった。


33.
クーは片手に持った酒瓶を呷った。

ドクオと会ってからも酒の量はまったく減っていない。


( ^ω^)「奥さん、飲みすぎですお」

川 ゚ -゚)「誰が奥さんだ」

( ^ω^)「ドクオさんと結婚するつもりじゃないんですかお?」

川 ゚ -゚)「ないね」


素っ気無く答えながら、クーは何気なく聞いてみた。


川 ゚ -゚)「ドクオさんは誰と会ってるんだ?」

( ^ω^)「さあ…たまにこうして人気のない場所で会ってるみたいですお」


途端に疑惑が沸いて出る。

浮気か?


34.
( ^ω^)「あっ、どこ行くんですかお」


運転手の言葉を無視してクーは車を降り、駐車場の入り口に向かった。

警備員が通せんぼする。


川 ゚ -゚)「ドクオの恋人だ。通してくれ」
∧∧
(,,゚Д゚)「ああ、テレビで見てますよ。しかし…」

川 ゚ -゚)「これを」
∧∧
(,,゚Д゚)「?」


ツンは自分の指からでっかいルビーのついた指輪を抜いて渡した。


川 ゚ -゚)「奥さんにどうぞ。たまには自分の妻をねぎらってやれ」
∧∧
(,,゚Д゚)「…」


警備員は黙って道を空けた。

35.
ヒールはカツカツうるさいので脱ぎ、裸足になった。

駐車場はあちこちに高級車やら訳ありげな事故車、真っ黒なバンなどが止めてある。

会員制なのはこのせいか。


川 ゚ -゚)(きっと半分は盗難車だな。あとはドクオさんみたいに密会に使っているとか…)


ドクオにはすぐに追い付いた。

彼は奥の方に停めてある車の中に入り、そこにいる男と何か話している。浮気じゃないみたいだ。

コンクリートの柱の影に隠れたクーは車のナンバーを口紅でコンパクトの鏡にメモった。

ドクオは男と握手している。

密談が終わりそうな雰囲気なのでクーは急いで入り口に戻った。


川 ゚ -゚)「私が来たことは秘密だぞ」
∧∧
(,,゚Д゚)「仰せのままにしますが…実は妻は耳が綺麗なんです。とても」



36.
クーは舌打ちしてダイヤのイヤリングを両方とも外し、警備員に押し付けた。

車に戻って靴を履き直し、髪型を整える。


( ^ω^)「どこ行ってたんですかお」

川 ゚ -゚)「あの人には言うな」

( ^ω^)「わ、わかりましたお」

('A`)「お待たせ」


戻ってきたドクオをクーは何事もなかったように迎えた。


川 ゚ -゚)「お疲れ様。誰と会って来たの?」

('A`)「ああ。古い友人でね、ちょっとした雑談だ」


浮気じゃあないことは確かだ。

コンパクトを入れたポーチが重みを増した気がする。


37.
('A`)「ん? イヤリングはどうした?」

川 ゚ -゚)「あれはダイヤがでかすぎる。重たくて耳が痛くなるんだ」

('A`)「指も痛くなるのか?」


ドクオが左手を顎で指す。クーは肩を竦めた。


川 ゚ -゚)「ゴテゴテしてるのは好きじゃない」


何とか騙し通してクーはドクオと食事を済ませた。

帰宅してから少しコンパクトの中身が気になったが、浮気でないとわかるとどうでもよくなってきた。

ドクオは優しいしいい人だ。

なら誰と会おうと別にいい。

コンパクトを化粧台に置き、そのことはそれっきり忘れてしまった。





38.
高級ホテルとドクオの豪邸を行き交う生活。

一度来たドレスは二度と着ない、どんな高級なヤツでも。

化粧品にも美容にもナイアガラの滝から注ぐ水みたいにカネをかけられる。

恋人は政党の党首。

なのに最近、古書店で暇を持て余していた頃がひどく懐かしい。

あの頃の退屈は穏やかで優しかった。

今は退屈であることがただただ息苦しい。

ツンとはあれから連絡を取っていない。

噂ではすでに結婚式を済ませたそうだ。クーは呼ばれなかった。


川 ゚ -゚)(まただ。またあの感じがする)


何か取り返しのつかない失敗が進行中であるような感じ。

酒の量は増え続けていた。


39.
そんなある日、クーはドクオに一緒に政党の会議に出るよう言われた。

なんだって自分が?

不安を抱えて彼と一緒に会議室へ入る。

党の幹部らを交えてのその話し合いはどうやら次の選挙の事らしかった。

対抗馬の勢力が大きく、勝算が少ないらしい。


('A`)「そこで君に頼みたいんだ、クー」

川 ゚ -゚)「私が? キョハル党のCMにでも出るのか?」

('A`)「そうじゃない。これを見てくれ。おい」


議長役の男が書類を持ってきた。


川 ゚ -゚)「これは…?」

('A`)「我々の敵となる党首のスキャンダルだ」



40.
('A`)「これを元にノンフィクションという形で作品を執筆し、発表してもらいたい」

川 ゚ -゚)「…」

('A`)「ス・クリョンという名前の威光は絶大だ。ラスメモ以来のベストセラーになるぞ」


頭がぐらぐらするのは昨日の酒が残ってるせいか?


川 ゚ -゚)「あなたと二人で話したい」

('A`)「わかった。皆、休憩してくれ」


出席者がいなくなって会議室が空になると、二人は向かい合った。


川 ゚ -゚)「何のためにこんなことをさせる?」

('A`)「キョハル党のためだ」

川 ゚ -゚)「もうあなたも気付いてる筈だ。私は嘘をデッチ上げて成り上がってきたって」

('A`)「わかっている。だから君に頼んでいるんだ」


41.
川 ゚ -゚)「…ってことは、そのスキャンダルの内容もデッチ上げ?」

('A`)「勝たねばならん戦いなんだ。政党の未来、いやこの国の未来がかかってる」

川 ゚ -゚)「ふざけるな!」


ドクオは溜め息をついたが、諦めた様子はない。

こいつは何か切り札を持ってるとクーは直感した。


('A`)「ラストメモリーに対する反論本が出るそうだ。作者はアニ・サスガとオト・サスガ」


サスガ兄弟と言えばノンフィクションの大御所だ。

影響力はかなりある。少なくとも成り上がりの作家を潰すくらいは。


('A`)「君がこちらの条件を飲むなら、出版社に圧力をかけて潰してやってもいい」

川 ゚ -゚)「やればいい…もうこんなのうんざりしてたところだ」


だがドクオの本当の切り札はこれじゃなかった。

42.
('A`)「こんな手は使いたくなかったが…」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「君は交友関係に問題があるんじゃないか?」

川 ゚ -゚)「何言ってる?」

('A`)「チョパーリに知り合いがいるんじゃないか」


誰の事だかしばらくわからなかった。


川 ゚ -゚)「ツ…ツンはクォーターだ、ほとんどバカン国人だぞ! それに最近は会ってないし…」

('A`)「チョパーリの血は臭うんでね。どんな僅かでも。スキャンダルは根源からすっぱり消さないと」

川 ゚ -゚)「貴様! ツンに手を出したら…」

('A`)「条件を飲め、クリョン」

川 ゚ -゚)「…」

('A`)「そうすればお互いに安泰だ。そうだろ? 損なんか一つもない取引じゃないか」


43.
帰宅してからベッドにうつ伏せになり、クーは泣いた。


川 ;-;)(私はバカだ。とんでもないバカだ)


あの男は最初からこういう目的で自分に近付いていた。

自分が築いたトランプの塔から、ジョーカーを見つけ出して脅すために。

崩れたトランプに自分が押し潰されるのはいい。

だがまったく関係のないツンをも巻き込むことになるとは。


川 ;-;)(何であの時のツンの忠告を無視したんだ…畜生、私は底無しのバカだ)


この条件を飲んで本を書いたとしても、それは一時的なものだ。

これからもドクオはずっと何かある度にツンの身をちらつかせて要求を通そうとするだろう。

だがそれを自分が批判できるのか?

嘘の層を幾つも重ね、人々を騙すことで大儲けしてきた自分に?


44.
泣き腫らした彼女の眼に化粧台に置きっぱなしのコンパクトが目に入った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日。


川 ゚ -゚)「条件を飲む。そのかわりツンには手を出さないで」

('A`)「いいだろう。そうこなくては」

川 ゚ -゚)「じゃあ、すぐ執筆にかかるからしばらく一人にしておいてくれ」


ドクオが仕事に出ている間にクーはバカン出版に電話した。


( ゚∀゚)「あっ、クリョン先生ですか! お世話になっています」

川 ゚ -゚)「社長を頼む」


クーはコンパクトにメモしたナンバーを調べるよう社長に命じた。無論秘密裏にだ。


45.
川 ゚ -゚)(何とか向こうのジョーカーを先に引き抜けば…)


いらいらしながら待っていると連絡が返ってきた。


(´・ω・`)「チョパーリ企業の所有車ですね。CHONYの」

川 ゚ -゚)「チョニーの? チョ系と繋がりが?」

(´・ω・`)「さあ…そこまでは」

川 ゚ -゚)「悪いけどお宅の記者を使って調べてくれないか?」

(´・ω・`)「クリョンさん、こりゃあヤバイ話ですよ」

川 ゚ -゚)「あんた家を買い換えたんだってな。給料が倍になったのは誰のおかげだ?」

(´・ω・`)「…」

川 ゚ -゚)「密会の場所は会員制の駐車場だ。詳しい住所はメールで送る」


電話を切り、酒瓶に伸ばしかけた手を引っ込める。

すべてが済んだ後の祝杯にとっておこう。

46.
数日後、バカン出版の社長から封筒が送られてきた。

ドクオがチョ系企業の重役やヤクザの幹部と会っているところや握手している写真だ。

ジョーカーを見付けた。だがまだ引き抜けない。

クーは写真をブリーフケースに入れ、車に乗ってキョハル党の事務所へ向かった。

すでに夜中で人は残っていない。

警備員がクーを出迎えた。


ミ,,゚Д゚彡「あ、どうも。もう誰もいませんが」

川 ゚ -゚)「ドクオさんに頼まれて書類を取りに来た。入れてくれ」

ミ,,゚Д゚彡「どうぞ。ご案内します」

川 ゚ -゚)「いや、一人で結構。懐中電灯だけ貸してくれ」


警備員を置いて党首の部屋、通称『社長室』に向かう。

ここの金庫には極め付けにヤバイものが入っている筈だ。


47.
金庫はナンバー式だ。

ドクオの誕生日、バカン建国記念日、北と分断した日。

その他諸々試したがうんともすんとも言わない。


川 ゚ -゚)「えーと、他に何か…」


色々悩んでチョパーリに核が落ちた日を入れると金庫の中でガチャリという音がし、扉が開いた。

クーはその日が記念日の一つであることを忘れていた。

バカン国にとってはめでたい日だからだ。


川 ゚ -゚)「よし。後は書類を…ん?」


とりあえず書類らしいものは片っ端からブリーフケースに詰め込んでいると、指先が硬いものに触れた。


川 ゚ -゚)「これは…拳銃か!?」



48.
慌てて金庫の中に戻そうとしていると、足音が二つ廊下から聞こえてきた。

話し声がする。

∧_∧
<ヽ`皿´>「あの女が来たらすぐ連絡しろって言ったニダ!」

ミ,,゚Д゚彡「すいません、さっき思い出しまして…」


片方の声には聞き覚えがある。

ドクオのボディーガードの一人だ。

クーは書類を詰めたブリーフケースを抱え、慌ててカーテンの影に隠れた。

二人が社長室に入ってきた。

∧_∧
<ヽ`皿´>「むっ!? 金庫が開いてるニダ!」

ミ,,゚Д゚彡「そのようですね」
∧_∧
<ヽ`皿´>「そのようですねじゃないニダ! すぐドクオさんに連絡するニダ!」



49.
ドクオがすでに予防線を張っていたか。こうなったら仕方ない。


川 ゚ -゚)「動くな!」


銃を構えてクーはカーテンから飛び出した。

ケータイを取り出そうとしていた二人がぎょっとして動きを止める。


川 ゚ -゚)「後ろを向いて跪け、両手は頭の上で組め!

     アメリカの刑事ドラマで見たことあるだろ! ああするんだ!」


二人は言う通りにしたが、クーは内心焦りまくっていた。

このボディーガードが自分の銃を仲間に見せびらかしているのを見たことがある。

今も持っているに違いない。

おまけにバカン国には男子に限って徴兵制がある。

撃ち合いになったら絶対勝てない。


50.
クーは『ダイハード3』でサミュエル・L・ジャクソンが撃たれるシーンを思い出していた。

銃には安全装置がある…テロリストはそう言っていた。


川 ゚ -゚)(安全装置…安全装置ってどれだ!?)


右手で構えた銃を左手でいじくり回す。

撃ちたくはないが、撃たれるのはもっと嫌だ。

何か異常を察したのかボディーガードが振り向いた。

それからさっと懐に手を伸ばす。

クーの左手が引き金の上、グリップを掴む右手の親指が届く場所にレバーがあることを探り当てた。

解除と同時に引き金を引く。

バンッ!

∧_∧
<ヽ`皿´>「いぎぃ!?」



51.
偶然と言うか幸運と言うか、クーの放った銃弾はボディーガードの手を撃ち抜いていた。

今まさに懐から引き抜いた銃をクーに向けようとしていた手をだ。

すぐに我に返り、クーは痛みにのたうち回る彼の頭を銃の台尻でぶっ叩いた。

∧_∧
<ヽ`皿´>「アイゴー!」


ボディーガードは白目を剥いて倒れた。


ミ,,゚Д゚彡「ひ、ひいい!」

川 ゚ -゚)「動くな! 動くな、動くなよ…」


警備員に銃口を向けたままブリーフケースを拾い、クーは事務所を飛び出した。

車に乗るとすぐに発進させ、ケータイを取り出す。


川 ゚ -゚)「ツン、ツン! …くそ、通じない!」



52.
警察に通報しかけて手を止める。

ドクオが警察組織の幹部を接待しているのを見たことがある。警察はダメだ。

そこでドクオの政敵であり、彼にスキャンダルを元にしたノンフィクションもどきを執筆するよう

強制された、アクラル党の事務所に電話をかけた。


川 ゚ -゚)「夜分遅くに失礼。私はス・クリョンだ…そう、作家の。すぐに彼に連絡してくれないか。

     私はドクオに関する重大な情報を持ってる…彼の政治生命に関わる重大な…」


電話に出た女はただならぬ気配を悟ってすぐに目的の人物に電話を繋いだ。

相手は半分寝ぼけたような声だったが、クーは構わずまくし立てた。


川 ゚ -゚)「あなたの政敵の息の根を止める情報を持ってる…マズイんだ、追われてる。

     いや、私はいい。それよりツン・デレンという女を助けて! 私の友人なんだ!

     住所か? ウソル東駅のまん前にあるマンションの…そう、そこ。

     そこの203号室。頼む! お願いだ、急いでくれ!」



53.
いきなりバックミラーが砕け散った。追って来た車の放った銃弾だ。


川 ゚ -゚)「うわっ! …あなたの事務所に行けばいいんだな、わかった」


二発目は正確にクーの車のタイヤを撃ち抜いていた。

彼女の車は風呂場を滑る石鹸みたいにくるくる回転しながら交差点に踊り出た。

いきなり飛び出してきたそれに通りすがりの別の車が激突する。


川 ゚ -゚)「うっ!」


衝撃が骨と内臓を痺れさせた。

フロントガラスは割れたが、それほど大きな怪我はしなかった。。

さすがチョパーリ車、これがバカンの車ならティッシュの箱みたいに潰れてる。

エアバッグがしぼむのを待ってからクーは車から這い出した。

銃弾がアスファルトにぶつかって弾ける。


54.
路地裏に逃げ込んだクーを連中はしつこく追って来た。

街灯の下にちらちらと見える顔はボディーガードじゃない。チンピラまがいの連中だ。


川 ゚ -゚)(ヤクザを使ったな…畜生!)


ブリーフケースが重い。

クーはそれを引き摺るようにして走った。

時折銃声がしては頭上や脇を銃弾がかすめてゆく。


川 ゚ -゚)「くそ!」


振り返ってめくらめっぽう撃ち返す。

そのうちの一発は確かに命中したようだが、何故か銃弾が反れてしまった。

闇に眼を凝らすとおかしな白い服のようなものを着ている。




55.
川 ゚ -゚)「滑るよ! すっごい滑るよ!」


表面をぬるぬるにすることによって銃弾を弾く新開発のボディーアーマーらしい。

つかず離れずの距離を保ち、彼らはずっと追って来た。


川 ゚ -゚)(弾が切れるのを待ってるのか…)


クーの手にしたリボルバー式の銃には六発の弾が入る。あと二発。

この路地を出ればすぐに目指す事務所だが、正しい方向へ進んでいるのかあまり自信がない。


川 ゚ -゚)(ツン、無事でいて…お願い…)


十字路に次ぐ十字路だ。

フェンスをよじ登り、壁の穴をくぐり、クーは走り続けた。

何時の間にか雨が降っている。



56.
まったくこれが現実だとは信じられない。

ほんの一年前まで酒の肴を贅沢して500ヨンサマのモノホンのコンビーフにするか

やっぱり節約して100ヨンサマの馬肉入りニセコンビーフにするか迷う生活だったのに。

それが何十年も前のように思える。

角を曲がろうとした時、後ろで銃声がした。左腕で赤い光が炸裂する。

光だと思ったそれは飛び散った自分の血だった。

突然腕の感覚が消滅し、ブリーフケースが地面に落ちる。


川 ゚ -゚)「…!!」


撃たれた。

悲鳴を上げている暇はない。

すぐさま振り返って撃ち返し、距離を詰めようとする追っ手を追っ払う。




57.
弾の切れた銃を捨て、ケースを右手に持ち直す。

心臓の鼓動に合わせて左腕の風穴から血が噴き出した。


川 ゚ -゚)「父さん…」


クーは走った。体がひどく重いが、それでも走った。


川 ゚ -゚)「力を貸して、父さん…!!」


眼が霞む。失血か、緊張か、それとも死の恐怖か? 或いはただの二日酔い?

銃声がして今度は右足の感覚がいきなり消えた。

転倒し、雨どいから滴り落ちる雨水が作った水溜りに突っ込む。

足音が近づいてきて、後頭部に銃口が当てられた。


川 ゚ -゚)(くそ…)



58.
銃を当てた男はケータイに向かって何か喋っている。

∧_∧
<ヽ`w´>「捕まえましたニダ…腕と足に食らってるけどまだ生きてますニダ。

      …始末でいいニカ? 了解ニダ」


別の男がブリーフケースを拾う。

恐ろしく近い場所でカチリと撃鉄が持ち上がる音がした。


川 ゚ -゚)「ツンが逃げ切れていますように」


クーは眼を閉じた。

ツンの言った通りだ。

今起きているすべては自分のやってきたことのツケを払ってるに過ぎない。借金の返済も同然だ。

銃声は遠くで聞こえた。




59.
∧_∧
<ヽ`x´ >「大丈夫ニカ? おっと、動かない方がいいニダ。すぐ救急車が来るニダ」


気がつくと知らない男が自分の傷口に布切れを巻いて止血していた。


川 ゚ -゚)「あなたは…」
∧_∧
<ヽ`x´ >「アクラル党の者ニダ。あんたを助けに来たニダ」


別の男たちが眉間に穴の開いた死体をどう処理するか相談している光景が見えた。

ああ、そうか。

さっきの銃弾は自分を追ってきた連中を撃ったものだったんだ。


川 ゚ -゚)「ツンは…?」
∧_∧
<ヽ`x´ >「あんたの友人は無事ニダ。我々が保護しているニダ」


次の瞬間、目の前が真っ暗になった。すべてが暗黒の底に落ちてゆく。


60.
クーの持ち込んだ各種書類が決め手となってドクオは逮捕された。

政権を取った後に便宜を図ることで政治資金を受け取っていたらしい。

クー自身はアクラル党の党首が手を回して結局ウヤムヤのうちに不起訴となった。

アクラル党に専属の作家にならないか誘われたが、クーはもうそういう事はうんざりだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


一年後。

サスガ兄弟の本が出版されてから作家ス・クリョンの評判はガタ落ちになり、彼女は国を出た。

前からの望み通り南国ハワイに建物を買い、小さな古書店を開いた。

相変わらずあまり儲からないが食うにはそれほど困っていない。

ある日ビーチで寝椅子に仰向けになっていると、突然知った顔が真上から覗き込んできた。


ξ ゚⊿゚)ξ「アロハー、久しぶり。あっついわねー」

川 ゚ -゚)「うわっ!」

61.
いきなりだったので驚いて寝椅子から転がり落ちる。

その様子を見てツンは腹を抱えて笑った。

笑いが収まるとクーは気まずい顔をした。

二度と会うことはないと思っていた友人が目の前にいる。


ξ ゚⊿゚)ξ「腕と足はすっかり元通り?」

川 ゚ -゚)「まあな。腕のいい整形外科に傷跡を消してもらったよ」


手足を見せる。それから思い切って声を出した。


川 ゚ -゚)「クー、私は…」

ξ ゚⊿゚)ξ「いいのよ。もういいの」

川 ゚ -゚)「でも、だって…結局危険な目に合わせて…」

ξ ゚⊿゚)ξ「人に聞いたわ。あんたが最後まで私の事を心配してたって」



62.
川 ゚ -゚)「…」

ξ ゚⊿゚)ξ「トランプの塔は崩れたわ。でもあんたはそれより私を優先してくれた」


ツンは笑った。


ξ ゚ー゚)ξ「だから許してあげる」

川 ゚ -゚)「…ありがとう」

ξ ゚⊿゚)ξ「そこのホテルに家族と来てるの。じゃ、子供にミルクあげる時間だから」

川 ゚ -゚)「子供? お前の!?」

ξ ゚⊿゚)ξ「他に誰の子供がいるのよ。後でまた来るわ」

川 ゚ -゚)「ああ」


寝椅子にまた転がる。

何故だか妙におかしくなって一人で笑っていると、ケータイが鳴った。



63.
( ><)「どうもなんです。ス・クリョンさんですか?」

川 ゚ -゚)「そうだけど、あなたは?」

( ><)「こちらはハリウッドの映画会社なんです。ワカンナイデススタジオって言います」

川 ゚ -゚)「ラスメモを映画したいってんなら、もう…」

( ><)「いや、そうじゃないんです。あなたの半生をお聞きして、映画化したいと思ったんです!

      世間を手玉に取ったその手口、素晴らしい! つきましては是非お話を…」


映画になる? 私のことが?


川 ゚ -゚)「わかりました。じゃあ、明日の朝一番に私の店で」


電話を切った後、クーは寝椅子に飛び乗った。

ラジオから流れる音楽に乗って踊り出す。


川 ゚ー゚)「 こ れ だ ! 」



おしまい。
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完全犯罪(カンザイ)
プラネットライカは隠れた名作

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